日本応用動物昆虫学会誌
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軟化病蚕の胃液と栄養囲膜の溶解について
第1報 栄養囲膜を溶解する細菌の種類
小野 正武市川 長平
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1963 年 7 巻 1 号 p. 31-37

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抄録
1. 蚕児の中腸にある栄養囲膜は健康な場合には確固としているのに対し,軟化病蚕の場合には程度の差はあるけれども溶解されていることから出発して,軟化病蚕の胃液が栄養囲膜を試験管内でも溶解することを1956年に見出した。
2. 健康蚕児の胃液もある種の細菌を加えることによって栄養囲膜を溶解するようになるし,軟化病蚕の胃液も105°C1時間の滅菌操作をすると膜を溶解する力を失う。
3. 胃液に加えられた場合栄養囲膜を溶かすのは軟化病蚕から分離された細菌であったが,この中で最も強力だったのはいわゆる灰白色細菌であった。
4. これまで灰白色細菌と呼称していた細菌群を今回分類したので,それらの細菌の栄養囲膜を溶解する力を調べた結果,全部の属が膜を溶解する力をもっているのではないということを明らかにした。
5. 栄養囲膜を溶解する力をもつもののうちでは非腸内細菌のAeromonasが最も強力で,30°Cにおいて1∼3日間で完全に溶解し,しかもこれが供試されたすべての菌株について同じ結果が得られた。これに次いでは非腸内細菌のAlkaligenesが溶解力が大きく,大部分の菌株が完全溶解を示した。同じく非腸内細菌のPseudomonasもかなり強い溶解力をもっているが,溶解しない菌株も僅かに含まれている。また腸内細菌のうちではKlebsiellaが大部分の菌株にかなりの溶解力があり,EscherichiaおよびErwiniaにおいては小部分の菌株に僅かな溶解を示すものが認められた。また非腸内細菌のB5Wには溶解する菌株もある程度は認められたが,大部分の株が溶解力をもたなかった。なお1菌株ではあるが腸内細菌のSerratiaは溶解力が大であった。
6. 軟化病蚕児から分離したグラム陰性の小桿菌のうち,今回調べた範囲内でどの菌株も全く栄養囲膜を溶解しなかったのは,腸内細菌のCitrobacter, Hafnia, Enterobacter, Rettgerellaと非腸内細菌のFlavobacteriumなどであった。
7. なお柞蚕,ヨトウムシ,ユウマダラエダシャクなどの健康な幼虫の胃液は,蚕児の栄養囲膜を全く溶解することはなかった。
8. 軟化病蚕の胃液は栄養囲膜ばかりでなく,蚕児の皮膚の小片をも溶解するが,この場合には栄養囲膜を溶解する場合より程度は低い。
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