日本応用動物昆虫学会誌
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Nereistoxin (4-N, N-dimethylamino-1,2-dithiolane)の殺虫作用に関する研究
第1報 殺虫効果について
坂井 道彦
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1964 年 8 巻 4 号 p. 324-333

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抄録

Nereistoxinの殺虫効果を,イエバエ成虫,チャバネゴキブリ成虫,アズキゾウムシ成虫,ニカメイガ幼虫,ダイズアブラムシ,カンザワハダニ,クワコナカイガラ,ハスモンヨトウ幼虫,コナガ幼虫,モンシロチョウ幼虫,キスジノミムシ成虫およびダイコンサルハムシ幼虫を用いて試験した。
Nereistoxinは合成した修酸塩(hydrogen oxalate)を用いた。
本化合物の殺虫力は同一種の昆虫を供試しても,薬剤投与法の違いにより異なった。すなわち,チャバネゴキブリに経口投与したとき,およびイエバエに食餌と混合して与えたときには殺虫力は局所施用した場合よりも高かったし,ハスモンヨトウ,モンシロチョウ,コナガ,ダイコンサルハムシ,およびキスジノミムシに食葉に処理して与えたときの殺虫力が高かったことから,本化合物は経口的に虫体に侵入したときに高い殺虫力を有すると推察される。
しかしながら,ニカメイガ幼虫にNereistoxinを局所施用したときは,仰転作用とともに高い殺虫作用があり,これに反してイエバエに同様の施用を行なってもほとんど作用はなかった。イエバエに注射した場合は強い殺虫力があるので,昆虫の種によって表皮透過性に大きな差があると推定される。
クワコナカイガラに対しては,かなりの殺虫効果または仰転効果があったが,ダイズアブラムシおよびカンザワハダニ(成虫および卵)には殺虫力は低かった。
以上述べたように,本化合物の殺虫力には種特異性があり,概して吸収口を有する昆虫には効力が低かった。また,一般に経口毒性が高いと見られるが,ニカメイガ幼虫には接触毒性が高かった。
供試虫に対する薬剤投与法が異なると,Nereistoxinは仰転作用のみを示し,中毒虫は回復して死に到らない場合があった。アズキゾウムシの試験結果に見るように,この回復は一定薬量が虫体に処理されたときに起り,薬剤に継続接触したときは回復が抑制され死に到ると思われる。
Nereistoxinによる昆虫の中毒症状は,痙れん・苦もんなどの症状がきわめて少なく,一般の殺虫剤と異なった特有の殺虫作用機構を暗示するものとして興味深い。

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