日本応用動物昆虫学会誌
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ヨトウガの生活史と夏眠
正木 進三境 隆
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1965 年 9 巻 3 号 p. 191-205

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抄録

ヨウトガの生活史と休眠については,すでにかなりの知見がある。それらを検討してみると,本州以南の個体群においては,休眠性を左右する光周期反応の分析結果と生活史の野外観察の結果との間に一致しない点がある。これは春夏世代のさなぎの特性-夏眠-についての理解が不充分なためであると考えられるので,弘前産のヨトウガを用いて夏眠と環境条件との関係を分析し,また北海道や本州南部からえた材料と比較した。
その結果,ヨトウガのさなぎの発育には,不休眠,夏型休眠,冬型休眠の3様式があることが確かめられた。幼虫期の短日処理によって冬型休眠がえられるが,長日処理をうけると不休眠あるいは夏型休眠のいずれかの発育様式をとる。長日下に生じたさなぎの夏眠率と夏眠の長さは環境および遺伝的要因によって支配されている。高温では夏眠率も夏眠期間もともに増加するが,温度の低下につれて夏眠は弱まり,ある限界温度以下になるとまったく消失してしまう。また北の系統は夏眠の遺伝的能力が低いが,南下するにつれて個体群の性質は夏眠強化の傾向を示す。
夏眠に対する幼虫期の環境の影響は未知の点が多いが,一応以上の知見にもとづいて,日本列島におけるヨトウガの生活史の地理的勾配変異の様相を模式的に描いた。

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