2025 年 46 巻 1 号 p. 11-16
近年,質の高い安心で安全な医療を求める患者や家族の声が高まる一方で,医療の高度化と多様化に伴う業務の増大に起因する医療現場の疲弊が社会的な問題となっている。「現行制度の下で実施可能な範囲におけるタスク・シフト/シェアの推進について」では,医師から他の医療関係職種へのタスク・シフト/シェア可能な薬剤師業務の具体例として「周術期における薬学的管理等」を明示し,周術期における薬剤に関連する具体的な業務を挙げている。一方,タスク・シフト/シェアを効果的に推進するための課題について「意識」「技術」「余力」の3つを挙げ,各課題解決に向けたアプローチを整理している。一部の職種のみの意識改革では容易には進めることは困難であり,各医療施設全体での意識改革や啓発活動が必要性である。またタスク・シフト/シェアを受ける側の余力確保も重要であり,特定の医療専門職種に負担が集中することがないように取り組む必要がある。2022年度の診療報酬改定では薬剤師の周術期業務に関連する加算として「周術期薬剤管理加算」と「術後疼痛管理チーム加算」が新設され,薬剤師が周術期業務に参画する病院が徐々に増えている。周術期において薬剤師に求められるタスク・シフト/シェアのニーズを見極めると共に,診療報酬改定のインセンティブを受け,薬剤師は周術期医療に更に貢献すべく,医療専門職種と連携,協働し,取り組んでいくことが重要である。
近年,質の高い安心で安全な医療を求める患者や家族の声が高まる一方で,医療の高度化と多様化に伴う業務の増大に起因する,医療現場の疲弊が社会的な問題となっている。こうした現在の医療の在り方を変え得る取り組みとして「チーム医療」が注目され,厚生労働省は「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について(平成22年4月30日付医政発0430第1号通知)」を発出し,多種多様な医療スタッフが個々の高い専門性を前提とし,目的と情報を共有して業務を分担するとともに,互いに連携,補完しあい,患者の状況に的確に対応した医療を提供するチーム医療を強く求めた1)。
一方,医師の業務については事務的な業務も含めて増加の一途を辿っており,厚生労働省は医師の労働時間短縮に向けた取り組みの一つである「タスク・シフト/シェア」について,医師の時間外労働の上限規制が適用される2024年4月に向けて,医療専門職種の法令の精査とタスク・シフト/シェアを進めていく上での具体的な検討を行った。
「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会」2)では,薬剤師が現行制度上実施可能とした業務の1つを「手術室において,薬剤に関連する業務の実施」とし,特に推進すべきものとしている(表1)3)。この検討会における議論を踏まえ,「現行制度の下で実施可能な範囲におけるタスク・シフト/シェアの推進について(令和3年9月30日付医政発0930第16号通知)では,現行制度の下で医師から他の医療関係職種へのタスク・シフト/シェアが可能な薬剤師業務の具体例として「周術期における薬学的管理等」を明示し,周術期における薬剤管理等の薬剤に関連する具体的な業務を挙げている(図1)4)。

「現行制度の下で実施可能な範囲におけるタスク・シフト/シェアの推進について(令和3年9月30日付け医政発0930通知第16号)」より作成
当院では2012年に手術室運営の効率化と周術期医療の安全性向上を目的に,麻酔科医師,周麻酔期看護師,手術室看護師,薬剤師,臨床工学技士,病院企画室事務員らと共に周術期管理チームを発足し,定期的なミーティングによる協議を開始した。約1年間の協議を経て,2013年4月より手術室に薬剤師を1名配置して業務を開始した。1年間の手術室業務を通じ,病院経営戦略としての手術件数の増加方針に対して,麻酔科による術前患者の評価に必要な薬学的な判断力やマンパワーの不足という現状に直面した。術前患者評価に薬剤師に参入して欲しいとの麻酔科の需要と,薬剤師として術前患者の医療安全に貢献したいとの要求が一致し,2014年5月からは薬剤師を1名増員し,麻酔科外来薬剤指導に業務を拡大して現在に至っている。2023年12月現在,当院では5名の周術期担当の専任薬剤師のうち毎日2名が,手術室担当と麻酔科外来担当に分かれて業務を行っている。また,手術室にて薬剤を集中的に調製する時間帯(9:00–11:30)では,中央の薬剤部より手術室にもう1名の薬剤師を投入し,午前中は3名,午後は2名体制で,周術期薬剤師業務を行っている。
1) 手術室薬剤師業務手術室では麻酔科医師,周麻酔期看護師,手術室看護師,薬剤師,臨床工学技士等が協働して業務を行っている。手術室薬剤師業務は,1.規制薬品管理,2.薬剤適正使用管理,3.薬品供給・薬剤調製に分別される。
1.規制薬品管理全ての規制薬品保管庫を手術室薬剤室内に配置し,規制薬品の保管および入出庫管理を強化した。毒薬と向精神薬はICカード対応の職員カード認証にて開錠可能な専用保管庫内に保管し,麻薬は職員カードと管理者カードのダブル認証にて開錠可能な設定とした(図2)。また,開錠可能な職種を薬剤師と手術室看護師に限定した。麻薬保管庫の管理者カードは薬剤師が日勤帯は携帯し,全ての麻薬の入出庫に薬剤師が確認する体制となっている。

手術室担当薬剤師は麻酔科オーダシートと術前麻酔科カンファランスの薬剤師記録を照合し,患者情報や術式,麻酔種別,術中に使用を回避すべき薬剤や,術中投与が推奨される薬剤の指示確認を行っている。また手術室担当薬剤師は術前予防的抗菌薬の適正使用を目的に,患者の体重や腎機能に合わせた抗菌薬の投与量,術中の追加投与間隔に関して考慮が必要な患者に関しては,麻酔科医師や看護師に情報提供を行っている。
3.薬品供給・無菌調製当院では手術室で使用する薬品の供給業務の多くを,薬剤部に所属するSPDにタスク・シフト/シェアしている。薬剤部SPDは予定手術患者では,手術前日に薬剤部にてSPDが患者毎の全麻薬剤トレーと診療科薬剤トレーに薬剤をセットし,薬剤カートに格納して手術室薬剤室に搬送する。各薬剤トレーには患者氏名とIDが印字された患者ラベルが貼付され,患者毎に個別化されている。手術室当日は,薬剤師は手術室薬剤室にて麻酔科より事前に指示された一部の薬剤を対象に,手術の進行を手術室モニターで確認しながら,クリーンベンチを用いて無菌調製を行っている。全麻薬剤トレーと診療科薬剤トレー及び薬剤師が無菌調製した薬剤は,患者が入室する直前に薬剤師と看護師が相互確認を行い,看護師により手術室内に持ち出される。手術終了後,患者個別薬剤トレーは看護師にて手術室薬剤室内の薬剤カートに返却され,薬剤部SPDにて薬剤部に回収される。薬剤トレーから実施された薬剤は,薬剤部SPDにて実施入力を行う(図3)。

麻酔科外来では,麻酔科医師,周麻酔期看護師,薬剤師,歯科衛生士,医療事務がチームとして連携し,手術,麻酔,術後の回復に影響を与える要因を職種毎に評価,指導し,その情報を職種間で共有している。対象患者は麻酔科が管理する予定手術全例とし,最初に薬剤師が面談と指導を行い,次いで周麻酔期看護師,歯科衛生士がそれぞれの職種の役割に応じた確認と指導を実施し,各職種により収集された情報をもとに,最後に麻酔科医師が診察や麻酔方法の説明,同意取得を行っている。
薬剤師が行う業務は,1.麻酔科外来薬剤管理指導,2.術前麻酔科カンファランスでの情報提供と情報共有に分類される。
1.麻酔科外来薬剤管理指導麻酔科外来では,外来担当薬剤師は患者面談前日までに事前に電子カルテの診療記録や画像取り込みされた麻酔科問診票の情報を確認し,麻酔科外来薬剤師記録のフォーマットを作成している。外来当日の患者面談では,外来担当薬剤師は事前に情報収集していた薬剤情報と,患者問診や持参したお薬手帳等の情報を照合し,最新の常用薬や市販薬,サプリメント等の使用歴情報を収集している。術前に中止すべき薬剤(抗血栓薬,糖尿病治療薬等)に関しては,外来担当薬剤師は電子カルテより診療科の主治医による術前休薬指示に関する記録を確認し,休薬の妥当性及び院内ガイドラインに準拠した休薬方針と照合の上,患者への休薬指導と理解度の確認を実施している。尚,当院ではサプリメントと健康食品,漢方薬に関しては,内容に関わらず一律で術前7日間の休薬を,院内ガイドラインで規定している。また,市販薬に関してはアスピリン含有製品に加え,具体的な商品名の提示がない場合には一律で術前7日間の休薬を指導している。その他,外来担当薬剤師はアレルギーや副作用歴,術中の薬剤選択に注意が必要な既往歴,副腎皮質ステロイド製剤の使用歴の確認や,PONV(術後悪心嘔吐)のリスク評価を行っている。外来担当薬剤師はこれらの情報を電子カルテに記録し,周麻酔期看護師や麻酔科医師など,周術期管理チームの多職種と情報を連携している。
2.術前麻酔科カンファランスでの情報提供と情報共有麻酔科カンファランスの事前準備として,外来担当薬剤師は麻酔科外来薬剤師記録から患者の情報を抽出し,カンファランス薬剤師記録表を作成している。麻酔科カンファランスでは,外来担当薬剤師は,術前に休薬が必要な薬剤の休薬順守状況,薬剤選択の適切性評価,副腎皮質ステロイド長期服用患者における術中術後ステロイドカバーの提案等,薬学的判断のもとに必要な情報を麻酔科や手術室看護師に対して能動的にフィードバックしている。また,外来担当薬剤師は,術前麻酔科カンファランスから得られた情報を手術室担当薬剤師,病棟担当薬剤師と情報共有し,薬剤師間の連携を行っている(図4)。尚,当院では麻酔科カンファランスは手術前日(月曜日の手術では金曜日)の15:30から開始される。

「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会」2)では,タスク・シフト/シェアを効果的に推進するために留意すべき課題について,「意識」「技術」「余力」の3つを挙げ,各課題解決に向けたアプローチを整理している。一部の職種のみの意識改革ではタスク・シフト/シェアは容易には進めることは困難であり,各医療施設全体での意識改革や啓発活動の必要性を示している。また,タスク・シフト/シェアを受ける側の余力確保も重要であり,特定の医療専門職種に負担が集中することがないように取り組む必要がある(図5)5)。

「第7回 医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会 資料4」より一部改変して作成
下線強調箇所は,当院で特に意識した課題解決のアプローチ
日本病院薬剤師会による令和4年度の調査では,薬剤師の手術室関連業務関与率は,会員施設の平均で59.5%,500床以上の病院では87.9%と報告している6)。令和4年度の診療報酬改定では,薬剤師の周術期業務に関連する加算として「周術期薬剤管理加算」と「術後疼痛管理チーム加算」が新設されたことを受け,薬剤師による周術期薬剤管理業務への更なる参画が望まれている。
一方で,薬剤師による周術期薬剤管理業務の展開状況には地域差があるのが現状であり,既存業務との兼ね合いで,業務展開に必要な人員を確保するのに苦慮する施設も少なくない。日本病院薬剤師会は令和6年2月に,積極的に周術期業務に取り組んでいる6施設を取材してとりまとめた「周術期薬剤業務事例集」を公開した7)。周術期業務開始の経緯,業務の効率化,手術室薬剤師と病棟薬剤師や他職種との連携,また,医師や看護師の周術期業務の評価などを紹介し,これから業務を始める施設や業務をさらに効率化させたい施設の参考とすべく,促している。
薬剤師は,周術期において薬剤師に求められるタスク・シフト/シェアのニーズを見極めると共に,診療報酬改定のインセンティブを受け,周術期医療に更に貢献すべく,他の医療専門職種と連携,協働し,取り組んでいくことが重要である。
「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェア」として,薬剤師による周術期における薬学的管理業務は特に推進すべきものとされている。一方で,タスク・シフト/シェアされる側の職種の余力確保も重要であり,医師以外の医療専門職種から他職種へのタスク・シフト/シェアの工夫も推進する必要がある。患者と病院スタッフの「幸せ」には,各医療専門職種が「遣り甲斐」を持ち,専門性を発揮できる多職種連携と協働が重要であると考える。