日本手術医学会誌
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教育講演2「手術器材の品質確保に向けたスマートな管理とは」
医療機器トレーサビリティ~製造から使用までワンストップの管理に向けて~
野村 由美子
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2025 年 46 巻 1 号 p. 6-10

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Abstract

医療機器や医薬品にバーコードを表示することで,製品追跡(トレーサビリティ)システムの構築が可能となり,物流や医療現場での活用が期待されることから,近年,国内外で標準化されたバーコードの表示,活用の取り組みが進められている。本邦では,医療機器について2008年にバーコード表示の実施要領を通知し,GS-1規格に基づくバーコード表示の普及・データベース登録を推進してきた。このような背景の下,バーコード表示・活用の更なる促進を図るため,平成元年の医薬品医療機器等法の改正により,トレーサビリティバーコードの表示を法律上の義務とした。併せて,添付文書について電子的な方法による提供を正本とし,バーコードに添付文書情報を紐付けることで,一部の家庭用の医療機器等を除き,紙の添付文書の同梱原則を廃止する制度を令和3年(2021年)8月1日から施行している。トレーサビリティの更なる向上に向けて,現在,厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会において,製品名とバーコードを紐付けるデータベース構築と,登録の義務化について議論が進んでいる。今後は,本データベースを基盤として,医療機関での利用を拡大し,医療安全の向上や事務の効率化が期待される。

1. トレーサビリティ向上のためのバーコード表示について

医薬品や医療機器へのバーコード表示の意義について,行政の関与が明確に示されたのは,2007年6月に閣議決定された「規制改革推進のための3カ年計画」1)まで遡る。それ以前から行政指導として,医薬品に対して標準コードの付与を求めていた2)が,改めて,「メーカーから医療機関までの流通管理を精緻化し,物流の効率化,医療事務コストの削減につながるとともに,医療機関において体制整備が進めば医薬品の取り違えによる医療事故の防止や,トレーサビリティの確保により,医療安全の向上に寄与するものと考えられ」たことから,医薬品に加えて,医療材料においても,通知を発出し,標準コード付与の整備を図ることとされた。

その後,令和元年(2019年)には,医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下,「医薬品医療機器等法」という)が改正3)され,この中で「トレーサビリティ向上のため,医薬品等の包装等へのバーコード等の表示」が義務づけられることになった。

具体的には,医薬品,医療機器又は再生医療等製品の製造販売業者に対して,令和4年12月1日より製品の販売包装単位に対して,製品を特定するための符号としてGS-1バーコードを表示することが義務づけられた。併せて医薬品の調剤包装単位や医療機器の個装等に対しても行政指導として表示が推奨されている4,5)図1)。

図1  トレーサビリティ用バーコードの表示

2. バーコード表示と製品を紐付けるデータベースに係る対応状況

製品に付与されたバーコードがその役割を果たすためには,バーコードと製品情報を紐付ける製品マスタデータベース(以下,「製品DB」という)が網羅的に整備され,利用可能であることが不可欠である。

令和4年のバーコード表示の義務化に併せて,公開されている製品DBに当該製品に係るデータを登録することが行政指導として手当てされた。実際には,医薬品,医療機器とも一般財団法人 医療情報システム開発センター(MEDIS)に設置されたデータベースに情報を登録することとされた4,5)

しかしながら,特に医療機器において,データベースの登録が芳しくないとの指摘もあり,令和4年9月時点の「医療機器等における情報化進捗状況調査」によれば,医療機器全体のデータベースの登録割合は93.5%であったが,そもそもの調査対象企業数に対する有効回答企業数の割合(いわゆる回収率)は61.6%6)にとどまった。

このような状況から,2024年6月に「経済財政運営と改革の基本方針2024」において,「医療安全の更なる向上・病院等の事務効率化に資する医薬品・医療機器等の製品データベースの構築等を推進する」ことが閣議決定された7)

このような流れを受けて,2024年10月に開催された,令和6年度第8回厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会において,特定用符号が義務づけられている医薬品・医療機器等の製造販売業者に対して,製品データベースへの商品コード等の登録を義務づけることについて議論が行われた8)

併せて,データベースの構築に当たっては,国際整合性の観点から公的なデータベースとすべきこと,登録の重複を避ける観点から,PMDA等,適切な設置期間を検討すべきこと,さらに,医療機関等における当該コード等の利活用の促進策についても検討すべきことについて指摘された。

3. バーコードの利活用

医薬品医療機器等法においては,患者の安全を確保するため,特にリスクの高い製品を対象に記録を保存することで追跡が可能な体制を構築している,具体的には,血液製剤等の特定生物由来製品については,医療機関において,使用日から少なくとも30年間,製品名,製造番号(ロット番号),患者の氏名,住所,投与日の記録を,植込み型心臓ペースメーカや人工血管等の特定医療機器については,製造販売業者において,患者の死亡または利用終了時まで,製品名,製造番号,製造記号,患者の氏名,住所,植込日,実施医療機関の名称,所在の記録を,培養皮膚やCAR-T製剤等の再生医療等製品については,医療機関において,使用日から少なくとも20年間又は患者の死亡,利用終了時まで,製品名,製造番号(ロット番号),患者の氏名,住所,施術日の記録を保管することが義務づけられている9,10)。これらの記録については,万が一,当該製品による感染症や不具合等のリスクが明らかになった場合に,患者まで当該情報を連絡し,受診勧奨等に繋げることを想定している(図2)。

図2  医薬品医療機器等法における記録の保存

これらの記録の保存や活用については,コード情報を活用し,電子的な伝達基盤を整備することで,医療機関や製造販売業者のみならず,患者ご本人へより迅速かつ網羅的にフィードバックが可能になることが期待される。

現在,並行して医療DXの取り組みが進められており,この中では,電子カルテ情報の利活用等が検討されている。電子カルテ情報共有サービスで共有される臨床情報の二次利用についても期待されているところであるが,利活用に当たっては,データの標準化・信頼性確保が不可欠であり,このために各種のコードの標準化・普及を行うことや,各種コードを紐付けるマスターの整備を行うこととされており11),今般の医薬品医療機器等法における製品DBへの製品情報の義務づけについては,この動きにも沿うものである。

また,標準電子カルテシステムにAPI連携で紐付く各種システムの一つとして,標準バーコードの読み取りやバーコードから製品情報への変換,製品情報の電子カルテや関連する部門システムへの記録の保存が標準的に装備されれば,製品バーコードの表示,製品DBへの登録の目的である,バーコードを利用した流通や医療事務の効率化,トレーサビリティの向上に基づく医療安全の確保より確実に実現されると考えられる。

4. バーコード表示のその先に~添付文書電子化について~

バーコードの利活用のうち,既に実現している取り組みとして,電子化された添付文書の表示について紹介する。令和元年の医薬品医療機器等法の改正に際して,バーコードの表示と併せて,医薬品,医療機器の添付文書について,それまでの紙による同梱を廃止し,電子的な方法による提供を基本とすることとした。電子的な方法による提供の具体的な方法については,製品の包装表示に義務づけているバーコード情報を,別途用意されたアプリケーション(添文ナビ)で読み取ることでリダイレクトページが表示され,添付文書等の注意事項等情報を閲覧できるようになっている。これらの取り組みは令和3年(2021年)8月1日に施行され,2023年8月1日からは経過措置期間の終了に伴い,添付文書の同梱が終了している12)図3)。

図3  添付文書の電子的な提供

添付文書については副作用情報等が明らかになる度に逐次改訂しているが,従来は出荷後に添付文書が改訂されることにより,必ずしも同梱されている添付文書が最新のものとは限らず,別途,医療機関への最新の添付文書の提供等が必要となっていたが,電子的な提供への変更に伴い,バーコードを介して,いつでも最新の添付文書が閲覧可能となったことにより,製造販売業者のみならず,医療機関にとっても利便性が高く,より安全に配慮した添付文書の閲覧環境が整えられた(図4)。

図4  電子的な添付文書の入手方法

5. ワンストップ管理に向けて

最後に改めて製品へのバーコード表示と製品DBの意義について触れたい。

バーコード表示と製品DBによって,個別の製品がロット(又は製造)番号まで特定できることにより,製造販売業者からの出荷から始まり,卸売業者を介して,医療機関への納入まで,いつ,何が,どれだけ,動いたのか,逐次正確かつ網羅的な記録が極めて効率的に作成出来るようになり,事務の効率化のみならず,出荷や流通状況の把握や,回収情報の確実な伝達が可能となる。また,医療機関においても,保険請求事務の効率化に加え,埋込等の記録を確実に保管するとともに,回収情報への確実な対応が可能となる(図5)。

図5  医療機器トレーサビリティ

当初より,医療事務の効率化と医療安全の向上を目指して,バーコード表示に係る取り組みが進められてきたが,製品DBへの登録義務化に伴い,この2つの目的が全うされるよう,利用の均てん化にむけた取り組みを進めていきたい。

文献
  • 1)   規制改革推進のための3か年計画(平成19年6月22日閣議決定).
  • 2)   「医療用医薬品へのバーコード表示の実施について」 薬食安0915001号 平成18年9月15日付け 厚生労働省医薬食品局医薬安全対策課長通知.
  • 3)   厚生労働省.令和元年の医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)等の一部改正について.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000179749_00001.html(2025年1月6日閲覧)
  • 4)   「医療用医薬品を特定するための符号の容器への表示等について」 医政産情企発0913第1号薬生安発0913第1号 平成4年9月13日付け 厚生労働省医政局医薬産業振興・医療情報企画課長,同医薬・生活衛生局医薬安全対策課長通知.
  • 5)   「医療機器,体外診断用医薬品等を特定するための符号の容器への表示等について」 医政産情企発0913第2号薬生安発0913第2号 平成4年9月13日付け厚生労働省医政局医薬産業振興・医療情報企画課長,同医薬・生活衛生局医薬安全対策課長通知.
  • 6)   厚生労働省.「医療機器等における情報化進捗状況調査」(令和4年9月末時点)の結果公表.https://www.mhlw.go.jp/content/10807000/001269568.pdf(2025年1月6日閲覧)
  • 7)   経済財政運営と改革の基本方針2024について(令和6年6月21日閣議決定).
  • 8)   厚生労働省.令和6年度第8回厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会(令和6年10月31日).https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44832.html(2025年1月6日閲覧)
  • 9)   医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号).
  • 10)   医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則(昭和三十六年厚生省令第一号).
  • 11)   厚生労働省.第16回健康・医療・介護情報利活用検討会(令和6年9月12日).https://www.mhlw.go.jp/content/12600000/001303779.pdf(2025年1月6日閲覧)
  • 12)   「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律の改正を踏まえた添付文書等記載事項の情報通信技術を利用する方法による公表について(依頼)」 薬生安発0311第1号 令和2年3月11日付け 厚生労働省医薬・生活衛生局医薬安全対策課長通知.
 
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