抄録
本稿では、トレッキング/登山観光の一大メッカとして知られるネパール東部のソルクンブ郡クンブ地方を対象として、ヒマラヤの山間部で荷を運ぶとはいかなる営みであるかという問いを中核に次の三点について論じる。①クンブ地方では観光産業の発展に伴って荷運び労働が階層化してきたこと、②周辺地域から流入して商店などの荷をキロ単価で運ぶ、「ローカル・ポーター」と呼ばれる人々の具体的な実践を報告すること、そして③ローカル・ポーターたちが、自らの仕事よりも相対的に良い仕事とみなすトレッキング・ポーターへの参入に、荷運びを通した階層上昇の希望を見出していること。これらの考察を踏まえたうえで、観光地化が進んだエベレスト地域のポーターたちは、苦痛(ドゥカ)に満ちた荷運びのなかに、外国人を介した発展(ビカス)の場への接近という希望を見出していることを指摘する。