2022 年 6 巻 1 号 p. 25-29
嗅覚障害は,アルツハイマー病の最も初期に現れる症状であることから,認知症の早期診断と予防への応用が期待されている。アルツハイマー病患者の脳で脱落する前脳基底部コリン作動性神経は,認知・記憶機能を担う大脳の新皮質・海馬とともに,嗅球に投射する。われわれの研究室では動物実験において,同神経が新皮質や海馬では血流を増やす働きを見出してきた。近年われわれは,同神経の嗅球での働きを調べ,嗅球のアセチルコリン放出量は海馬や新皮質より少ないこと,ニコチン受容体の刺激が嗅球のにおい応答を増大することを見出した。臨床応用したわれわれのパイロット研究では,地域在住高齢者において嗅覚域値と認知機能の関連を見出した。バラ花香を同定する域値の高い高齢者群では,域値の低い群と比較して,認知機能のなかでもコリン作動系の関わる注意機能や弁別機能が低いことが示された。