1999 年 40 巻 1 号 p. 21-29
20世紀後半の科学技術の急速な進展に伴い,最新の研究活動の成果が生活と直結するようになってきた.ところが,理科教育の実践の場では,当然のことながら,過去に確実にわかった事実が教えられる.そこで,それを補充し,しかも科学も人間の営為であることを伝えることを目的に,科学者が何を考えどのような研究をしているのかを科学者自身が語る「サイエンティストライブラリー」を制作した.
サイエンティストライプラリーは科学者各人の個性を浮き彫りにするとともに,科学の現状を伝える試みである.今回は生物学(特に発生生物学・分子細胞生物学・分子進化学)を例に,科学者88名の情報を検索できるようにして,ィンターネット上で公開した.
更に,理科及び生物教師を主とした教育関係者の反応と理科教育の場での利用の可能性を探ることを目的に,調査を行った.その結果,サイエンティストライブラリーは調査対象者から好意的に受け止められていることがわかった.また,教育の場では進路指導の情報源や授業の補充的資料として科学者に関する具体的情報が求められており,その要望に応えるための活用という可能性が見出せた.サイエンティストライブラリーは,科学者が自ら語り,各々の個性が充分に出る形で最新の科学を伝えるという,これまでにない科学表現の試みである.今回は生物学の一部の分野に的を絞り制作したが,今後他の分野にも広げていくための1つのモデルとなると考えられる.