生物教育
Print ISSN : 0287-119X
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研究論文
  • 山野井 貴浩, 楢原 千琴, 谷津 潤
    2018 年 59 巻 3 号 p. 150-157
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/29
    ジャーナル フリー

    中学校理科の教科書には「優性,劣性という語句は優れている,劣っているという意味で使われているのではない」等の注意書きがされている.しかしながら,そのような誤概念を有している生徒の割合に関する定量的な調査や,誤概念の修正を意図した授業実践の報告は日本ではなされていない.そこで,本研究は認識調査と授業実践を行った.中学校理科における遺伝学習を終えた中学3年生対象に認識調査を行ったところ,一部の生徒は「優性の形質は生存において有利である」という誤概念を有していることが明らかとなった.また,キリギリスの体色およびエンドウの草丈の遺伝を題材とした授業を,中学3年生を対象に実施したところ,多くの生徒は「優性の形質は生存において有利である」という誤概念を有していたものの,一部の生徒は授業を通して誤概念を修正できたことが示唆された.

  • 園山 博, 渥美 茂明
    2018 年 59 巻 3 号 p. 158-166
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/29
    ジャーナル フリー

    高等学校学習指導要領の改訂により,高校生物では,多くの分子生物学的現象を扱うようになった.その中でも,PCR法は分子生物学研究の基盤技術であり,その原理の理解は,他の技術の理解や習得に不可欠である.しかし,教科書でのPCR法の説明では,プライマーはどのようなものか,鋳型DNAにどのように結合するかの説明が不十分であり,プライマーを両端として伸長される新生鎖がPCR法で生じる増幅領域となる理由を生徒が深く理解することができないと考えられる.

    そこで,プライマーDNAが鋳型DNAに結合することを理解するのに必要な解説と図を含んだワークシートを作成した.フォワードプライマーとリバースプライマーのそれぞれが,鋳型DNAに結合する位置と,各プライマーDNAが結合する向きおよび新生鎖の伸長方向を学ぶ内容である.このワークシートを利用し,増幅されるDNA断片の大きさを測る実験を行うことと,増幅されるDNA断片の領域を遺伝子の塩基配列から探す課題とを併用した授業計画を立案した.授業後,65%の生徒がプライマーDNAにより増幅される鋳型DNAの領域を正しく答えることができた.作成したワークシートによる学習が,プライマーの働きを理解するのに有効であったためと考えられる.

研究資料
  • 内山 智枝子, 武村 政春
    2018 年 59 巻 3 号 p. 167-172
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/29
    ジャーナル フリー

    現行の高等学校学習指導要領における生物教育では,高校生の9割以上が履修する「生物基礎」において,セントラルドグマの概念の理解が求められている.セントラルドグマのメカニズムを説明するためには,DNAとRNAの役割の違いを区別することが不可欠である.しかし,大学生を対象とした国内外の調査から,「複製」と「転写」に関する混同が報告され,高校生を対象とした調査でも,DNAとRNAの構造や構成成分の概念構築が曖昧であるとの問題提起がなされている.そこで本研究では,最終的な目標であるセントラルドグマの理解に不可欠な「複製」と「転写」におけるDNAとRNAの役割を,高校生が区別しているかどうか現状を把握し,その原因を追究することを目的として,高校1年生「生物基礎」履修者を対象に質問紙調査を実施した.質問紙調査の結果,「複製」と「転写」におけるDNAとRNAの役割を区別していない生徒の存在と,どのように混同しているのかその実態が明らかになり,記号や模式図,岡崎フラグメント,相補的結合が起こる鎖の数,「複製」や「転写」の必要性に対する誤った理解が,混同の要因となっていることが示唆された.このことから,提示するメカニズムの内容と使用する記号や模式図を生徒の実態に合わせて検討すること,「複製」や「転写」の必要性を強調し相補的結合に関する知識の転化を促すように学習環境や授業デザインを工夫することが,生徒の混同の解決につながるのではないかと考える.

  • 渡部 美佳, 大澤 力, 小林 辰至
    2018 年 59 巻 3 号 p. 173-179
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/29
    ジャーナル フリー

    本研究では,保育者養成大学の学生の身近な昆虫との関わりの実態を明らかにするとともに,昆虫に関わる体験が,その昆虫の標準和名と生息環境とを関係付けて理解している程度に影響を及ぼしているかどうかを明らかにすることを目的とした.質問紙調査は「昆虫の理解度」:昆虫名を標準和名で記述でき(識名度),その昆虫の生息環境と関係付けて理解しているかと,「昆虫との体験」:該当する昆虫の実物を見たこと,捕まえたり触ったりしたこと(直接体験),本で見たこと(間接経験)を問う二つの質問で構成した.

    その結果,昆虫の理解度の得点は,実物を見たこと,捕まえたり触ったりしたこと,本で見たことのすべての昆虫との体験の得点と正の相関が見られた.また,理解度得点の高い学生は,低い学生よりも昆虫との体験の平均得点が有意に高かった.そのため保育者養成大学の学生の「昆虫の理解度」と「昆虫との体験」の間には深い関係があることが示唆された.さらに「理解度」は特に実物を見たことと最も相関が高いことが示された.このことから,昆虫の存在をあまり得意としない保育者養成大学の学生の身近な昆虫への理解度を高めるためには,授業の際に実物を教材として提示し,学生自身が見て直接体験することができるような展開が求められると考えられた.さらに多様な昆虫との体験は,五感の中でも長期記憶として残りやすいと言われる触覚にも働きかけることを可能にすることから,昆虫という存在が今後意義深い教材となることが推測された.

    また,保育者養成大学の学生は身近な環境に昆虫がいても見えていない,あるいは選択的に見ている可能性があることが示唆された.科学的に見たり考えたりするためには,その前提として事実を認識することが重要な事項となる.子どもの科学性の芽生えを保障する保育者には,その素養の一つとして昆虫に対する理解や体験を保育現場で勤務するようになる前に豊かにしておくことが必要となると考えられた.

    日常の保育現場では,昆虫の名称やその生息環境を正しく理解していることが必ずしも要求されることではないと考えられるが,それらに対して共に楽しみ理解しようとする保育者の姿勢は,子どもの発達や科学的問題解決能力に繋がる力を育成するためにかけがえのないものになるだろう.そのためにも昆虫という身近な存在を,将来の保育者が保育の教材の一つとして興味を持って扱えるようになる,そのような保育者養成プログラムに関する研究を今後更に進めていきたい.

特別寄稿
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