生物教育
Online ISSN : 2434-1916
Print ISSN : 0287-119X
研究資料
キショウブにおける精細胞観察法と花粉保存法の確立
近藤 悠司山田 貴之谷 友和
著者情報
ジャーナル フリー

2022 年 63 巻 2 号 p. 97-103

詳細
抄録

高等学校「生物」における被子植物の受精過程の学習時に,花粉発芽と花粉管伸長の観察が行われることが多い.この観察学習を発展させ,花粉管内を移動する雄原細胞や精細胞を,生徒が直接観察できるようにすれば,被子植物の花粉が果たす役割について,一層の実感を伴った理解が図れると期待される.その際の観察教材として,アヤメ科キショウブ(Iris pseudacorus L.)が有望である.キショウブの雄原細胞は有色であるため,花粉管内を移動する様子を染色せずに光学顕微鏡で観察できる.しかし,キショウブにおいて,雄原細胞から精細胞を実験的に生じさせる方法は,これまでに知られていない.本研究では,ポリエチレングリコール培地に塩化アンモニウム(NH4Cl)を添加してキショウブ花粉を培養し,花粉管内において雄原細胞の分裂が促進されるか検証を行った.その結果,NH4Clを添加した培地では,約80%の雄原細胞で分裂が起こり,精細胞が形成された.花粉散布後,精細胞が出現するまでに平均7時間20分を要した.他方,キショウブの開花期間は2か月程度(5~6月)であるため,花粉の長期保存ができなければ,観察教材としての有用性は高まらない.そこで,キショウブ花粉を薬包紙と紙袋に封入して冷凍庫で長期間保存し,解凍後にNH4Clを添加した培地で培養し,花粉の発芽能力と精細胞の形成能力を調べた.その結果,4か月間保存した花粉は50~60%程度の発芽率を示し,花粉管内における精細胞の出現率は10~15%であった.春に採取した花粉を冷凍保存しておけば,移動する雄原細胞や精細胞を観察できる教材として,秋まで高等学校「生物」の授業で活用できることが分かった.

著者関連情報
© 2022 一般社団法人 日本生物教育学会
前の記事 次の記事
feedback
Top