行動医学研究
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原著
喫煙獲得ステージに焦点をあてた予防のための介入 :
中学生における13カ月後の追跡調査から
大竹 恵子島井 哲志
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2004 年 10 巻 1 号 p. 34-43

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抄録

本研究では、中学生の喫煙防止教育として、ステージ理論に基づいた予防のための介入を実施し、13ヵ月後の追跡調査の結果からその介入の効果について検討することを目的とした。
喫煙行動に関する行動変容の理論としてステージモデルがある。このモデルは、喫煙者が禁煙するという行動変容の段階をステージとしてとらえ、それぞれのステージごとにアプローチすることが効果的であることを提唱した理論である。多くの実践研究から、喫煙者が禁煙するという行動変容をはじめとして、飲酒や薬物、食行動、運動習慣など、さまざまな不健康行動の修正を行う場合に、このステージモデルを用いることが有効であることが報告されている。
われわれは先の研究において、青少年を対象に喫煙行動に関する調査を行い、非喫煙者が喫煙していくという喫煙獲得の行動変容を、前熟考期、熟考期、準備期、実行期という4つのステージから理解できることを示し、不健康行動を獲得しないことをめざした予防のための新しい理論を提案した。そして、この4つの喫煙獲得行動のステージごとに、喫煙に関連するセルフ・エフィカシー、誘惑、意思決定バランスなどの個人の認知、社会的スキル、環境要因などのさまざまな要因が変化することを明らかにしてきた。そこで、本研究では、われわれが先に提案した新しいステージモデルに基づいて中学生を対象に予防的な介入を行い、13ヵ月後の追跡調査から介入効果について検討した。
対象者は中学生123名 (男子69名、女子54名) であった。これらの対象者は、同学年であり、調査開始時は中学2年生であった。調査内容は、喫煙獲得行動のステージを判別する4項目と喫煙に関する正しい知識を聞く10項目、喫煙行動に関連するスキルを測定する9項目、喫煙に関するセルフ・エフィカシーを聞く6項目と誘惑に関する10項目の尺度であった。介入にあたっては、ステージを考慮して独自に作成したリーフレットと携帯用カードを用いて、現職教員が実施した。これらの教材にはステージごとの認知的、行動的な目標が詳細に設定されており、映像を提示して知識を高めたり、ロールプレイを行うことによって模倣学習させるなど、集団での喫煙防止教育の介入効果をめざした。
13ヵ月後の追跡調査の結果から、ベースライン調査時に比べて前熟考期の人数割合が増加していることが示された。さらに、前熟考期の生徒では、知識、スキル、セルフ・エフィカシーの平均得点がベースライン調査時に比べて有意に増加していることが明らかにされた。しかしながら、熟考期、準備期、実行期の生徒については、介入後の人数の変化はみとめられなかった。また、熟考期の生徒ではスキル得点の増加が示されたが、他のステージや個人要因については、介入後の変化はみとめられなかった。
以上の結果から、本研究で行ったステージに焦点をあてた予防のための介入は、前熟考期に生徒を変化させる効果がみとめられたと考えられるが、他の3つの喫煙ステージについては介入の効果は示されなかった。今後、さらに長期的な追跡調査から介入の効果を検討し、他の個人要因、心理社会的要因の変化についても明らかにする必要があると考えられる。

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© 2004 日本行動医学会
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