抄録
本研究は、わが国の一般集団における、喫煙がストレスへの有効な対処方法であるという信念の浸透と社会的影響を検討したものである。ここで分析した資料は、厚生省による平成12年度精神保健福祉動向調査によるものであり、2000年6月1日に実施されたものである。調査対象者は、平成12年国民生活基礎調査の調査地区から無作為抽出した300地区内における満12歳以上の世帯員であった。調査回収総数は32,729であり、このうち集計不能なものを除いた集計対象数は32,026であり、男性15,217、女性16,597、性別無記入212であった。結果は2つのことを示している。第1は、タバコをすうことをストレス対処と回答した割合は、全体の14.6%であったことである (男性22.8%、女性7.2%)。これは、喫煙者率を考慮すると、男性では喫煙者の50%程度、女性では70%程度にのぼると考えられる。第2は、喫煙はストレス対処のさまざまな方法の中では低い位置にあるということである。すなわち、喫煙をストレス対処の主要な方法にあげたものはわずかに1.9%に過ぎず、また、喫煙をストレス対処としてあげた集団は、積極的に問題に取り組んだり、感情に焦点をあてた、その外のストレス対処を行う集団よりも、主観的な健康状態が悪かったのである。以上のことから、わが国の一般集団において、喫煙が有効なストレス対処であるという信念はきわめて浸透しているものの、それは主要なストレス対処として用いられているわけではなかった。したがって、疫病予防の強化のためだけでなく、国民の精神保健の改善のためにも、喫煙がストレス対処であるという蔓延した信念に根拠がないことを示すことが重要であると考えられた。