行動医学研究
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総説
行動医学における社会学的視角
宗像 恒次
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1995 年 2 巻 1 号 p. 20-28

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抄録
疾病はさまざまな要因の複合的相互作用から生まれる。社会文化的要因と身体的、心理的ストレス、またそれらの影響を余儀なくされた個人のパーソナリティーとの相互作用、そしてその個人がそれらの要因の相互作用の中でうまく適応できないところがあることによって疾病が生まれる。日本人はこれまで自分の意見や気持ちの表現を抑え、まわりに認められるために自己犠牲的な努力をしやすいところがあった。人々は職場、学校、地域での脅しを含むピラミッダルな関係の中で社会化され、管理されてきた。概してその世界に適応してきたが、他方ではストレス病につながるような生活を送ってきた。後期産業社会になると消費者の必要とする生産物やサービスを単に提供するだけでは不十分である。消費者の心を充たすものを提供することが不可欠である。経営者や従業員は顧客の心を捉える感性をもち、その心を充たしうる生産物やサービスを創り出す必要がある。すなわち、彼らはひとの心に共感でき、自らの心を表現できることが必要になる。単に上司に対し自分を抑制し、その指示に自己犠牲的に従うだけでは十分ではない。ところで、ストレス病の苦しみはそうなった自己への嫌悪感や抑うつ気分に強めている。が、翻ってその苦しみをバネにして、まわりに認められるために自己抑制するのではなく、他の人への共感的感情をもって自らの心を表現することである。それこそが後期産業文化に適応できうることでもある。
しかし、保健医療従事者はストレス病に対して対症療法におわれており、それを生み出す行動特性の変容までには心がいっていない。後期産業社会の医療文化はかつての脅しを含むピラミッダルな関係を反映したパターナリズムから保健医療サービスの提供者と利用者が相互に尊敬し合える社会関係をつくることが必要である。しかも利用者は行動変容のための自己決定や自己成長が効果的なカウンセリングによって支えられる必要がある。
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© 1995 日本行動医学会
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