行動医学研究
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総説
日本保健医療行動科学会の活動
中川 晶
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2014 年 20 巻 2 号 p. 58-62

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要約

日本保健医療行動科学会は我が国で最初の保健・医療分野における行動科学に関する学会であり、四半世紀に渡って医療や保健に関する研究・教育に貢献してきた。保健・医療従事者は単に病気をみるのではなく、病気をもつ、あるいはその恐れをもつ人間をみるものだという言葉はよく耳にする。しかし実際は病気しかみていないことが多い。しばしば人々は、日常の苦しみや悩みを、本人の気づかないまま病気で表現したり、不健康な生活を改めることができないままでいる。しかも本人自身がそれらに気づいておらず、その気づきを手助けするはずの保健・医療従事者も十分認識がすすんでいないことがある。このような病気や不健康の側面のみならず、保健医療を考える際には、予防や健康増進といった面での行動科学的知識がなお一層重要となってくる。このような健康や病気の心理社会的な背景と、身体的側面の相互作用を研究しようとする行動科学が米国を中心に進歩してきた。それは、心理学、社会学、人類学、生理学などを総合的に応用し、人間の健康問題にかかわる行動(個人・集団・社会)の変容過程を実証的、体系論的に解明しようと努力している。本学会はこのような動向を受けて1986年に発足した。こうした保健医療関連の行動科学(医療社会学、医療心理学、医療人類学等を含む)は、欧米では、医師や看護などの保健医療従事者の教育にとり入れられ、資格試験にも採用されている。 我が国でも2026年の医学教育のグローバルスタンダード認定に向けて様々な取り組みがなされるなか、本学会の歩みを紹介することが有用であると考えた。まず本学会の理念として、何故行動科学が保健・医療に必要なのかを紹介し、さらにこれまでの学会の歩みを紹介するために、これまでの学会のテーマおよび内容について記した。

はじめに

本学会は、人間の行動(個人・集団・社会)の変容過程を実証的、体系論的に解明しようとする健康行動科学に関する研究・教育の発展のために、社会・人文科学・自然科学の各分野の国内外の研究や学習の場づくりを目的として1986年に設立された。この背景は欧米の医学教育をはじめとする保健医療の専門家の教育の必須科目としてBehavioral Science(行動科学)が既に20年以上の歴史を持っていたのにも関わらず、我が国ではこの方面に関する教育がほとんど行われていなかったことに医学や看護学の専門家が危惧を抱いたことによって発足した。ここでいう行動科学とは心理学における行動主義理論を医療に応用した分野も包含するが、その方面に関しては日本行動医学会で大きく発展した。これに対して保健医療行動科学会は設立当初から医療分野の専門家ばかりでなく、社会学者・文化人類学者・心理学者など様々の分野の専門家が結集して活発な議論がなされてきた。その後、保健医療行動科学会は看護学の分野を中心に発展し、最近ではほとんどの看護大学で保健医療行動科学の科目が設けられるようになっている。しかしながら我が国の医学部における医師教育においてはまだバラツキが多く行動科学教育が標準的に行われているとは言えない状況である。今後は我が国の固有の文化的社会的事情も組み入れた行動科学教育が必要と考えられる。

行動科学の必要性

まずは何故、行動科学(Behavioral Science)が医療に必要なのかという点から始めたい。保健医療行動科学会の初代会長の中川米造は、その著書『医の倫理』の冒頭でつぎのように述べている1)。「医師はプロフェッションであるといわれる。プロフェッションとはプロフェスした職業をいう。プロフェスというのは宣言という意味である。宣言する主体は当の職業結社、相手は不特定の社会あるいは市民である」。つまりは宣言して、自分たちの質を自分たちで保証するということになる。何故このような複雑な手続きをふむ必要があるのか、それは医師たちの行う医療という行為には質の善し悪しの判定が容易でないからという理由がある。コンピュータにしろ他の電気製品にしろ修理に出して、直ってこなければ料金を払う人はいない。しかし、医療は違う。病状が悪いとき、どんな医師が治療に当たっても治らないかもしれない。しかし治らない可能性があるなら治療はいらないと拒否する人は希である。

治療にもかかわらず不幸な結果になったとしても、医療費を払うことを拒否する患者は少ない。何故なら、行われた治療の質の判定は自分たちではできないので、専門家である医師に任せるしかないからである。勿論医療訴訟は年々増加の一途を辿ってはいるが、裁判の時に当の医療の質を判定するのは、やはり医師しかいない。それで他の医師が駆り出されることになるが、実は科学的に医療の質の判定ができるかというとこれが怪しい。例えばラットの実験ではかなり一律な結果が出ても、人間では相当にバラついた結果になる。人間の場合は生理学的、心理学的、文化的多様性があるためである。医学という分野には統計的な真実しかないという事実は心しておくべきである。例えばロケットを発射してどのような軌道を描くかということや、エタノールを酸化すれば酢酸になることは物理学的真実、化学的真実である。しかし、医学の場合は事情が異なる。抗がん剤シスプラチンの効果や副作用の出方にしても過去のデータを母集団とした統計学的真実でしかない。上記の物理学的真実や化学的真実とは重みが違う。つまりは医学の場合は確率でしか、ものが言えないということになる。さらに患者が薬を自発的に飲むか否か、病気のメカニズムを知って養生を心がけるか否かで、治療効果は当然のことながら異なる。とすれば、医学の方法論を自然科学のみに依拠するのは充分でないと言わざるを得ない。

英国グラスゴーの卓越した内科医Mackenzie, Ivy(1877–1959)の言葉を借りて中川米造は個人的なノートのなかで次のように述べている「自然科学者とちがって医者が問題にするのは一個の生命体、すなわち逆境のなかで自己のアイデンティーを守り抜こうとする個人としての人間である」。

医学が有効な人間の治療学であるためには、自然科学以外の分野の強力な援用が必要であることは明らかであるにもかかわらず、現代医学は自然科学の方向にしか見ていないのではないだろうか。病者は自ら治ろうとする(変容)という認識は、重要であるにも関わらず、近年見直されることがない。手術、薬物療法、さらには心理療法までも外側からの介入として捉えられる。介入的方法が有効であるのは急性疾患が主であって、慢性疾患ではそれほど効果がない。病者の行動が変化しなければ糖尿病も高血圧も治らない。それならば ということで、行動をコントロールすれば病気は治ると考えて、今度は動物の行動を条件づけの方法などで変容させることを実験的に証明したWatson, J. B.(1878–1958)らの行動主義理論を人間に応用した行動療法が始まった。しかし、現在初期の形で人間の行動を外部からコントロールする条件づけの方法はほぼ消え失せてしまった。つまり、病者にとって外部からのコントロールは行動変容にはつながらないことが証明されたということになる。それならばどうすれば良いのか。答えはそれほど難しいものではない。病者自ら変容しようとする過程を理解し促進するしかないのではないか。そのためにはこれまでの自然科学に依存していた医学そのものの体質を変えねばならない。心理学・社会学・文化人類学・歴史学など人文科学と呼ばれる分野が集積してきた知識も医療に役立てていく必要がある。このような分野は医療行動科学と呼ばれ、欧米では多くの研究者を輩出している。1970年代にはすでに米国において医療に携わるほぼ全ての専門職スタッフはその修学過程で医療行動科学を修めることが義務づけられており、資格試験においても医療行動科学の設問が課せられるようになっている2,3)

学会の歩み

1986年の発足した本学会の歩みは、大きく3期に分けられる。第1期は1986年から1997年、第2期は1998年から2000年、第3期は2001年から2013年。それぞれの時期は各期の会長の在職時期とほぼ重なる。第1期は大阪大学医学部教授中川米造会長の時期である。この時期は保健医療行動科学会の黎明期であり、様々な分野の専門家が集まり、行動科学の可能性を真剣に討論した時代といえる。なかでも医療者自身の態度の変容が、医療をより良いものにしていくには必要という議論が繰り返され、医学教育、看護教育の世界に新風を送り込んだといえる。ちなみに第1期の役員構成をあげると次のようになる。

〈会 長〉中川米造

〈副会長〉相磯富士雄、園田恭一

〈理 事〉伊藤亜人、稲岡文昭、河野友信、仲尾唯治、中島紀恵子、長谷川 浩、南 裕子、宮地建夫、宗像恒次

〈海外アドバイザー〉

Charles Leslie(米国、人類学)、Byron J. Good(米国、人類学)、Samuel W. Bloom(米国、社会学)、John D. Stoeckle(米国、医学)、Arthur Kleinman(米国、人類学)、Nancy Engel(米国、看護学)、Anne J. Davis(米国、看護学)、Tamar Krulik(イスラエル、看護学)、 Frank A. Johnson(米国、医学)、Margaret Lock(カナダ、人類学)、David Mechanic(米国、社会学)、Mririam Hirschfeld(イスラエル、看護学)、Patrcia Archbold (米国 、看護学)、William Holzermer(米国、看護学)、Virginia M. Ohlson(米国、看護学)、N. Shinpuku(WHO、医学)、George C. Stone(米国、心理学)、Howard E. Freeman(米国、社会学)

1997年中川の逝去により筑波大学人間総合科学部の宗像恒治教授が会長を引き継ぐことになった。宗像会長は筑波大学大学院人間総合科学研究科教授で独自の行動変容技法である情動認知行動療法SAT法構造化連想法を提唱した。第2期は本学会内でも宗像会長の下、治療的な技法としての行動変容への関心が高くなった時代といえる。第3期は2007年から2013年まで甲南大学文学部人間科学科の谷口文章教授が会長の時代といえる。谷口会長は倫理学、環境学の専門家であり本学会も技法というより、保健医療の変容技法より幅の広い環境、倫理の研究活動が増加してきた時代といえる。また時代の流れもあり保健医療にナラティヴ・アプローチを適用するという方法論が出てきたのもこの時期である。

以上、簡単に本学会の歩みを記してきたが、これまでの学会のテーマと内容は以下の通りである4)

・1985年10月19日 日本保健医療行動科学設立準備

シンポジウム(ルークホール、東京)

テーマ:「健康と病気をめぐる行動科学」

講 演:「日本保健医療行動科学会発足について」

中川米造(大阪大学)

シンポジウム:「健康と病気をめぐる行動科学」

・1986年6月7~8日 第1回大会・総会(星陵会館、東京)

講 演:「伝統的治療行動と近代医学の接点」

波平恵美子(九州芸術工科大学)

シンポジウム:「日本人の強迫的性格と病気」

「医療従事者・患者関係における心理と文化」

一般演題8題

・1987年6月27~28日 第2回大会・総会

(順天堂大学有山記念講堂、東京)

講 演:「日本の医療体系の病-これからの医療と医療人教育」 植村研一(浜松医科大学)

シンポジウム:「医療従事者の教育と行動科学」

「人間関係障害の激増とソーシャルネットワーク」

一般演題8題

・1988年6月24~25日 第3回大会・総会

(大阪薬業年金会館、大阪)

講 演: 「現代日本人の意識と行動-日本人の行動の予測要因」田中国夫(関西学院大学)

ワークショップ:「日本の患者」、トークイン「ケアとは」

シンポジウム:「セルフケア」

一般演題11題

・1989年6月23日 健康行動科学公開セミナー

(メヂカルフレンド社、東京)

レクチャー:「保健医療の行動科学ABC」

宗像恒次(国立精神・神経センター)

河野友信(都立駒込病院)

体験学習:「援助のためのコミュニケーション」

中川米造(滋賀医科大学)

講 演:「健康心理学-新たな可能性」

G.C.ストーン(UCSF)

・1989年6月24~25日 第4回大会・総会

(エーザイホール、東京)

講 演:「ヘルスプロモーションへの行動科学の貢献」

G.C.ストーン(UCSF)

シンポジウム:「ヘルスプロモーション-慢性疾患からの解放を求めて」

臨床ワークショップ:「医療倫理-真実告知をめぐって」

一般演題10題

・1990年6月23~24日 第5回大会・総会

(日本社会事業大学、東京)

大会長:相磯富士雄(大妻女子大学)

講 演:「国際化の中での日本の食糧問題」

中村靖彦(NHK解説委員)

シンポジウム:「セルフケアとしての食行動」

教育講演:「食べるということ」 木村修一(東北大学)

一般演題22題

・1991年6月22~23日 第6回大会・総会

(京都大学、京都)

大会長:中川米造(滋賀医科大学)

テーマ:「保健医療におけるコミュニケーション・ストラテジー」

講 演:「読みの手がかり-日常的相互行動の事例から」

谷 泰(京都大学)

シンポジウム:「健康教育とマスメディア」「患者の視点からコーディネーションを考える」

ミニシンポジウム:「医療者の世界、患者の世界-その出合いの場で何が起こるのか」

一般演題21題

・1992年6月27~28日 第7回大会・総会

(東京大学、東京)

大会長:園田恭一(東京大学)

テーマ:「つくられた環境、つくりかえる行動-より豊かな生存をめざして」

講 演:「健康増進と環境-WHOの動向を中心として」

園田恭一(東京大学)

シンポジウム:「医療環境とオーダー」「環境問題と行動変容」

一般演題30題

・1993年6月26~27日 第8回大会・総会

(東京医科歯科大学、東京)

大会長:河野友信(ストレス科学研究所)

テーマ:「慢性の病いをめぐる行動科学」

講 演:「慢性症の保健行動」

河野友信(ストレス科学研究所)

特別講演:「エイズ患者の看護」

Diane Jones(サンフランシスコ総合病院)

シンポジウム:「慢性の病いをめぐる行動科学」

ラウンド・テーブル:「エイズと人間行動」

一般演題30題

・1994年6月25~26日 第9回大会・総会

(大阪国際女子大学、大阪)

大会長:柳井 勉(大阪教育大学)

テーマ:「パフォーマンスと保健行動-健康教育と行動変容の科学」

講 演:「健康教育から見た保健行動」

柳井 勉(大阪教育大学)

特別講演:「動作とこころ」

成瀬悟策(前九州女子大学長)

シンポジウム:「パフォーマンスと保健行動」

公 演:「癒しの芸術-フィーリング・アーツ」

北村義博(現代美術作家)

林 絹代(相愛大学)

体験学習ワークショップ

一般演題31題

・1995年6月17~18日 第10回大会・総会

(大妻女子大学、東京)

大会長:宗像恒次(筑波大学)

テーマ:「自己決定の行動科学」

講 演:「行動変容の理論と技法を学ぶ」

宗像恒次(筑波大学)

特別講演:「癒しの瞑想法-エイズから生還した私」

Niro Markoff Assistent(瞑想家)

体験学習ワークショップ、ビデオ事例討論会

一般演題35題

・1996年6月15~16日 第11回大会・総会

(かでる2.7、札幌)

大会長:中島紀恵子(北海道医療大学)

テーマ:「セルフヘルプの行動科学」

講 演:「セルフケアとセルフヘルプの統合」

中島紀恵子(北海道医療大学)

教育講演:「高齢者援助の行動科学」

杉山善朗(前札幌医科大学)

体験学習ワークショップ

一般演題30題

・1997年6月21~22日 第12回大会・総会

(甲南大学、神戸)

大会長:谷口文章(甲南大学)

テーマ:「医療倫理と行動科学」

講 演:「医療倫理と意思決定」 谷口文章(甲南大学)

特別講演:「日本人の行動特性」

濱口恵俊(滋賀県立大学人間文化学部)

シンポジウム:「生命倫理と行動科学-自己決定のプロセス」

体験学習ワークショップ

一般演題45題

・1998年6月20~21日 第13回大会・総会

(東京医科歯科大学、東京)

大会長:谷 荘吉(小松病院)

テーマ:「ターミナルケアの行動科学」

講 演:「ターミナルケアにおける行動科学の役割」

谷 荘吉(小松病院)

特別講演:「ターミナルケアにおける患者行動への対応」

日野原重明(聖路加国際病院)

特別セッション:「故中川先生をしのぶ」

シンポジウム:「ターミナルケアの行動科学」

体験学習ワークショップ

一般演題31題

・1999年6月19~20日 第14回大会・総会

(東京女子医科大学、東京)

大会長:長谷川浩(東海大学)

テーマ:「喪失と悲嘆の行動科学」

講 演:「悲嘆援助にかかわる諸問題」

長谷川浩(東海大学)

特別講演:「悲しみの人間学-ホスピスでの経験から」

柏木哲夫(大阪大学)

シンポジウム:「喪失と悲嘆の行動科学」

体験学習ワークショップ

一般演題33題

・2000年6月17~18日 第15回大会・総会

(大阪教育大学柏原キャンパス、大阪)

大会長:上野 矗(大阪教育大学)

講 演:「すこやかな生の行動科学-sufferingとwell-beingを考える」

上野 矗(大阪教育大学)

特別講演:「弱みを強みに、利益のないところに利益を求めて-ぺてるの家の実践から」

向谷地生良・川村敏明(浦河日赤病院)

シンポジウム:「すこやかな生の行動科学」

体験学習ワークショップ

一般演題33題

・2001年6月16~17日 第16回大会・総会

(筑波大学大学会館、つくば)

大会長:宗像恒次(筑波大学)

テーマ:「行動医療の最先端<フロンティア>-健康への自己決定を支援する-」

基調講演:「健康の自己決定を支えるSATカウンセリング」

宗像恒次(筑波大学)

特別講演:「輝いて生きる-あなたの遺伝子が目覚めるとき」

村上和雄(筑波大学名誉教授)

シンポジウム:「行動医療の最先端」

体験学習ワークショップ

一般演題36題

・2002年6月8~9日 第17回大会・総会

(北海道大学学術交流会館、札幌)

大会長:久村正也(北海道医療大学)

テーマ:「全人的医療と行動変容」

基調講演:「行動変容と心身医学的医療」

久村正也(北海道医療大学)

特別講演:「大学生のメンタルヘルスの現状と対策」

佐々木大輔(弘前大学)

シンポジウム:「日常生活における不健康行動の修正」

体験学習ワークショップ

一般演題33題

・2003年6月21~22日 第18回大会・総会

(東京歯科大学、千葉)

大会長:石井拓男(東京歯科大学)

テーマ:「保健医療のコミュニケーション教育」

基調講演:「保健医療のコミュニケーション教育」

石井拓男(東京歯科大学)

教育講演1):「北米医学部のPBLの源流と筑波大学医専での新しいコミュニケーション教育」

宗像恒次(筑波大学)

教育講演2):「日本の医療コミュニケーション教育の現状と課題」

藤崎和彦(岐阜大学)

シンポジウム:「保健医療のコミュニケーション教育」

体験学習ワークショップ

一般演題30題

おわりに

以上、駆け足的に本学会の学術活動について羅列的に述べてきたが、保健医療行動科学は非常に幅の広い分野を内包していることが、長所と短所を合わせ持つ結果になったと考えられる。保健医療に行動科学が必要であることは論を待たないが、どのような内容を医療者教育に盛り込んでいくのかについては、学会内部でも統一的な見解はない。そのため混乱が生じることもある。看護学の分野ではほとんどの教育機関において行動科学が科目に入っていることは最初にも述べたが、教えられている内容は様々である。しかし一方においては、この分野は統一されないことが大事なのかもしれない。様々な立場、意見が議論を繰り返していくことが保健医療の行動科学を発展させていくのかもしれない。

文 献
  • 1)   中川米造.医の倫理(玉川選書63).東京:玉川大学出版,1977: 1–3.
  • 2)   中川米造.日本保健医療行動科学会の発足にあたって.日本保健医療行動科学会雑誌 1986; 1: 1–14.
  • 3)   中川米造.学会創立10周年を迎えて.日本保健医療行動科学会雑誌 1995; 10: 1–3.
  • 4)  「学術大会のあゆみ」日本保健医療行動科学会ホームページhttp://jahbs.info/prospect.htmlより.
 
© 2014 日本行動医学会
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