行動医学研究
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原著
外来がん患者が抱える主治医と話すことへのためらいと患者のコミュニケーション行動との関連
小川 祐子 長尾 愛美谷川 啓司鈴木 伸一
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2015 年 21 巻 1 号 p. 22-30

詳細
要約

患者と医師とのコミュニケーションは、がん患者の身体的・精神的負担の軽減において重要な役割を担っている。しかし、主治医に話すことにためらいを感じ、伝えるべきことや聞きたいことを伝えられずにいるがん患者は少なくない。外来患者が主治医に話す際に抱くためらいについては、「情報の取捨選択に対する葛藤」と「主治医へのあきらめ」の2因子で構成されていることが示されている。本研究では、患者の満足度と関連する患者のコミュニケーション行動を明らかにし、次に、主治医に話すことへのためらいが外来がん患者のコミュニケーション行動とどのように関連しているのかを明らかにすることを目的とした。補完代替療法を行っている都内のがん専門クリニックに通院する成人がん患者51名に質問紙調査を実施した。調査内容は、フェイスデータ、診察場面において患者が主治医に話すことへのためらい、診察場面における患者のコミュニケーション行動、および診察に対する満足度であった。なお、対象者は、当該クリニック(補完代替療法)の医師ではなく、がんの主たる治療を行っている病院の主治医とのコミュニケーションについての評価を行った。患者のコミュニケーション行動と診察に対する満足度との関連を検討するために、患者の年齢、がん種、就業状態を制御変数として、患者のコミュニケーション行動の各下位尺度と診察に対する満足度について、偏相関係数を算出した。その結果、情報提供行動および行動の全体評価と診察に対する満足度について、有意な弱い正の相関関係が認められた(p<0.05)。また、情報検証行動と診察に対する満足度については、年齢を制御変数とした場合には有意な弱い正の相関関係(p<0.05)、がん種および就業状態を制御変数とした場合には、有意傾向の弱い正の相関関係が認められた(p<0.10)。医師に話すことに対する患者のためらいと患者のコミュニケーション行動との関連を検討するために、患者の年齢、がん種、就業状態を制御変数として医師に話すことへの患者のためらいの下位尺度と患者のコミュニケーション行動との関連を検討した。その結果、葛藤について、情報提供行動、質問行動、希望表明行動、情報検証行動、行動合計得点との間に有意(p<0.05)または有意傾向(p<0.10)の負の相関関係が認められた。また、あきらめについて、希望表明行動、行動合計得点との間に有意(p<0.05)または有意傾向(p<0.10)の負の相関関係が認められた。 本研究の結果から、診察に対する患者の満足度の向上には、情報提供行動および情報検証行動が特に重要であることが示された。また、それらの行動は、患者の情報の取捨選択に対する葛藤によって阻害されている可能性が示された。主治医は患者からの詳細な情報提供を望んでおり、診察場面において患者からより多くの質問を望んでいることから、患者が質問することに対する主治医の希望について、患者へ心理教育を行うことが有用であると考えられる。また、看護師や心理士による、主治医から患者へのコミュニケーションを橋渡しする関わりも同様に求められるといえる。

はじめに

患者と医師とのコミュニケーションは、がん治療における患者の身体的・精神的負担の軽減において重要な役割を担っている1)。これまでSHAREコミュニケーション技術研修会2)(Communication Skill Training: CST)のように医師のコミュニケーションスキルを改善する取り組みが多くなされてきているが、患者のコミュニケーションスキルの向上も同様に重要である。たとえば、患者が自身の健康に対する価値観を適切に伝達することで、医師から提供される情報の種類や量に影響を与えうることが示されている3)。また、患者の適切なコミュニケーションは、医師による正しい診断や適切な治療プランの同定を可能にするだけでなく4)、疾患や治療に対する患者の適応とその予後1)、診察に対する満足度5)などに肯定的な影響を及ぼしうることが指摘されている。

がん患者に必要なコミュニケーションスキルとして、Cegala6)は質問スキル、情報提供スキル、情報検証スキル、不安表現スキルの4つを挙げている。患者が医師に対して自発的に聞きたいことを聞く質問スキルは、患者の健康に対する信念に対する医師の理解を促進する7)。また、患者が医師に現在の症状などについて話す情報提供スキルは、治療中の患者の意思決定において重要な役割を果たすと共に8)、医師の診断や治療選択の正確さを高め、診察時間の短縮や、医療システムのコスト削減に繋がると考えられている6)。情報検証スキルは、患者が医師に話を繰り返すよう要求したり、医師の話を要約するなど、既に受け取った情報に対する理解を確かめるスキルを指し、新たな情報に対する患者の即時理解を補助するだけでなく、治療に関する情報想起にも貢献しうる9)。不安表現スキルは、その後の治療や個人的な問題、心配事を共有するスキルを指し、患者における潜在的な障害を、率直に表現することにより、患者と医師の双方からのコミュニケーションの改善に向けた努力が実現するとされている9)。また、これらの4つのスキルに加えてBylundら9)は、患者がなんらかの希望を有している場合、その希望を明確に主治医に伝える重要性を述べており、これを希望表明スキルと呼んでいる。このように、患者から情報を求め、提供し、検証することや、不安などの感情面や希望について医師に伝えることは、医師と患者の関係性を保ちながら、治療を円滑にすすめていくために重要な要素といえる。

しかしながら、Parkerら10)は、患者のコミュニケーションスキルの上達や質問回数の増加を目的とすることが、必ずしも医師とのコミュニケーションにおける患者の満足につながらないことを指摘している。たとえば、国内外において、患者が質問したいことや患者から頻繁に問われる質問から項目リストを作成し患者に提示する介入が行われているが、患者の行動変化に対する十分な効果は示されていない11, 12)。その原因として、質問項目リストが形式的であり、聞きたいことがあるにもかかわらず遠慮して聞けずにいること、質問項目リスト以外の話ができないことが挙げられている13)。外来がん患者を対象に主治医に話をしづらい理由を明らかにした研究では、患者は主治医と話をする際に、「主治医を困らせてしまいそう」、「話をしても事態が良くなるわけではない」といった戸惑いを感じていることが明らかにされている14, 15)。このことは、患者のコミュニケーションスキルの向上に加えて、医師とのコミュニケーションによって得られる利益など、医療者とのコミュニケーションに対する患者の捉え方にも改善の余地があることを示している。つまり、患者と医師との良好なコミュニケーションを実現するためには、患者のコミュニケーションスキルのみでなく、診察場面における患者の戸惑いやためらいといった心理的な妨害要因も考慮する必要性があるといえる。

外来患者が主治医に話す際に抱くためらいについては、「情報の取捨選択に対する葛藤」(以下、葛藤)と「主治医へのあきらめ」(以下、あきらめ)の2因子で構成されていることが示されている16)。しかし、患者のどのようなためらいが、患者のどのようなコミュニケーション行動を阻害しているのかついてはこれまでに検討されていない。また、患者のどのようなコミュニケーション行動が、患者の満足度と関連しているのかについても明らかにされていない。

そこで、本研究では、まず、患者の満足度と関連する患者のコミュニケーション行動を明らかにし、次に、主治医に話すことへのためらいが外来がん患者のコミュニケーション行動とどのように関連しているのかを明らかにすることを目的とする。本研究の仮説として、診察場面で説明された治療法について患者が正しく情報を記憶できていることと、主治医とのコミュニケーションに対する満足度の高さとの関連が示されていることから17)、情報想起に役立つ患者のコミュニケーション行動と患者の満足度は正の相関関係にあるとする。また、主治医に話すことへのためらいの下位因子のうち情報と関連がある「葛藤」は、情報に直接関連する行動である9)情報提供行動、質問行動、情報検証行動と負の相関関係にあると考えられる。また、先行研究では、患者の付き添い家族の主治医への信頼の高さと質問回数に関連がみられていることから18)、主治医への信頼を失った状態である「あきらめ」と、患者の希望表明行動や不安表出行動は、負の相関関係にあると考えられる。

本研究によって、外来がん患者の満足度に関連するコミュニケーション行動が、どのようなためらいを抱くことによって阻害されているのかについて明らかになることにより、従来の患者向けCSTの効果を促進するために必要であると考えられる心理教育の内容について有用な示唆を与えることができる。また、患者向けCSTだけでなく、医療スタッフが患者のコミュニケーション行動と関連するためらいについて情報を得ることにより、医療者から直接的にその迷いを軽減するような関わりを行うことができ、よりよい医療コミュニケーションを可能にすると考えられる。

方 法

1.調査対象者

本研究は、補完代替療法を行っている都内のがん専門クリニックに通院する成人がん患者を対象とした横断研究であった。適格基準は、(1)20歳以上である、(2)病理組織学的に悪性腫瘍と確定診断されている、(3)病名を告知されている、(4)医師による患者の身体状態への評価がEastern Cooperative Oncology Group (ECOG)のPerformance Status(PS)において 0~2である、(5)がんに対する標準治療を他院の外来で受けている、(6)文書による同意を得られる、の6点とした。除外基準は、(1)脳疾患などの器質因、認知機能障害が認められる、(2)日本語の読み書きに問題がある、の2点であった。なお、本研究の調査先であるクリニックは、がんの標準治療を行う施設ではなく、関東に所在する補完代替療法を専門とする医療法人社団クリニックであった。

2.手続き

適格基準および除外基準により研究参加候補者となった患者が外来受診した際に、補完代替療法の担当医から研究への参加可否について希望を聞かれ、参加を希望した患者に対して、調査者が研究内容について説明を実施した。調査者からの説明に対して、研究への参加について文書による同意が得られた患者に質問紙調査を行った。調査は、2012年8月から2013年3月までの期間で行われた。なお、以下の調査項目への回答は、当該クリニック(補完代替療法)の医師への評価ではなく、がんの主たる治療を行っている病院の主治医とのコミュニケーションについての評価とした。

3.調査内容

a.フェイスデータ:年齢、性別、がん種、診断時ステージ、再発有無、転移有無、PS、居住形態、就労状況についてカルテから情報を得た。

b.診察場面において患者が主治医に話すことへのためらい:小川16)によって構成概念が検討され、信頼性と妥当性が確認された2因子7項目の質問を用いた。第I因子の「葛藤」は4項目、第II因子の「あきらめ」は3項目から構成された。回答の合計得点は、患者が主治医と話すことをためらう程度を表す。「標準治療について主治医と話をするときの考えについて、以下の項目はどの程度あてはまりますか?」という教示文の後に、「医師との関係性を壊してしまうだろう」、「医師に話をしても事態は良くならないだろう」等の項目に回答する。回答には4件法を用いた。

c.診察場面における患者のコミュニケーション行動:Bylundら9)によって開発され、妥当性と信頼性が確認されている、Patient Report of Communication Behaviorの項目を用いた。質問スキル、情報提供スキル、情報検証スキル、不安表現スキル、希望表明スキルの5つのスキルを測定する各2項目と、スキルの全体評価を測定する1項目の、合計11項目の質問から構成されている。回答には5件法を用いた。

d.診察に対する満足度:Takayamaら19)の研究に用いられた25名のがん患者の意見をもとに作成され信頼性が確認された4項目を用いた。診察に対する総合的な満足度を測定する2項目と、医師との会話に対する満足度を測定する2項目から成り、本研究では標準治療を担当している(していた)主治医との直近の診察場面についてその満足度を測定した。回答には5件法を用いた。

4.分析方法

適格基準に該当する対象者から得られた回答のうち、研究の除外基準に合致する2名、および全質問項目に対する回答の10%以上に欠損が認められた1名を除き、本研究における最終的な分析対象者51名を選出した。主治医との会話における患者のコミュニケーション行動が、外来がん患者の属性によって差異がみられるかを検討するために、年齢、性別、がん種、PS、ステージ、転移の有無、再発の有無、居住形態、就労状況を独立変数、患者のコミュニケーション行動得点を従属変数として、t検定を行った。群分けの際、がん種については、本邦において男女ともに死亡率の高いがん種である肺がん、胃がん、大腸がん、膵がん20)と、その他のがん種に分類した。ステージについては、末期がんであるステージIVとその他のステージ0~IIIに分類した。PSについては、症状の知覚がないPS0と症状が知覚されるPS1以上に分類した。次に、患者の診察に対する満足度と関連のある患者のコミュニケーション行動を明らかにするために、t検定によって差が認められた属性を制御変数として、患者のコミュニケーション行動の各下位尺度得点と診察に対する満足度尺度得点について偏相関係数を算出した。最後に、患者のコミュニケーション行動に関連する医師に話すことへの患者のためらいを明らかにするために、t検定によって差が認められた属性を制御変数として、ためらい尺度の各下位因子得点および合計得点と、コミュニケーション行動の各下位尺度得点および合計得点について、偏相関係数を算出した。有意水準は5%とした。ただし、有意水準10%未満の結果については、先行研究21,22)を参考に有意傾向として解釈した。また、偏相関係数が0.2未満の場合は無相関関係、0.2以上~0.4未満の場合は弱い相関関係、0.4以上~0.7未満の場合は中程度の相関関係、0.7以上の場合は強い相関関係があるとした。分析には、IBM SPSS Statistics 21を用いた。なお、本研究は、早稲田大学人間科学学術院「人を対象とする研究に関する倫理審査委員会(承認番号:2012-050)」の承認を得て実施された。

結 果

1.調査対象者の背景

対象となった51名(Table 1)のうち、男性は21名、女性は30名であった。調査時の対象者の平均年齢は、61.82 ± 11.34歳であった。対象者のがん種は、肺がん5名(9.8%)、乳がん4名(7.8%)、食道がん2名(3.9%)、胃がん6名(11.8%)、小腸がん1名(2.0%)、大腸がん5名(9.8%)、肝臓がん2名(3.9%)、胆道がん4名(7.8%)、膵がん15名(29.4%)、子宮頸がん2名(3.9%)、子宮体がん2名(3.9%)、卵巣がん3名(5.9%)であった。診断時ステージについて、ステージ0は1名(2.0%)、ステージIは2名(3.9%)、ステージIIは2名(3.9%)、ステージIIIは9名(17.6%)、ステージIVは37名(72.5%)であった。調査時に転移があったのは41名(80.4%)、調査時に再発を経験している患者は25名(49.0%)であった。調査時のPSについて、0は27名(52.9%)、1は22名(43.1%)、2は2名(3.9%)であった。家族と一緒に暮らしている患者は44名(86.3%)、勤務形態に関わらず、就労に従事している患者は15名(29.4%)であった。

Table 1. Demographic variables (N=51)
n %
Sex Male 21 41.2
Female 30 58.8
Age 20 ≤ 39 3 5.9
40 ≤ 49 4 7.8
50 ≤ 59 11 21.6
60 ≤ 69 20 39.2
70 ≤ 79 12 23.5
80 ≤ 1 2.0
Cancer Type Lung Cancer 5 9.8
Breast Cancer 4 7.8
Esophagus Cancer 2 3.9
Gastric Cancer 6 11.8
Small Intestinal Cancer 1 2.0
Bowel Cancer 5 9.8
Liver Cancer 2 3.9
Biliary Cancer 4 7.8
Pancreatic Cancer 15 29.4
Cervical Cancer 2 3.9
Endometrial Cancer 2 3.9
Ovarian Cancer 3 5.9
Stage 0 1 2.0
I 2 3.9
II 2 3.9
III 9 17.6
IV 37 72.5
Recurrence Yes 41 80.4
No 10 19.6
Metastasis Yes 25 49.0
No 26 51.0
PS 0 27 52.9
1 22 43.1
2 2 3.9
Households Two-or-more-person households 44 86.3
Living alone 7 13.7
Employment Condition Employed 15 29.4
Unemployed 36 70.6

2.患者の属性と診察場面でのコミュニケーション行動との関連

患者の属性によって、診察場面でのコミュニケーション行動に違いが認められるかについて検討するため、患者の属性を独立変数、診察場面での患者のコミュニケーション行動を従属変数として、対応のないt検定を行った(Table 2)。その結果、65歳未満の患者は65歳以上の患者に比べて、情報提供行動(t=2.07、p<0.05)と不安表出行動(t=2.90、p<0.01)が有意に多いこと、65歳未満の患者は65歳以上の患者に比べて、コミュニケーション行動の合計得点が高い傾向であること(t=1.93、p<0.10)が示された。また、死亡率上位のがんの患者は、その他のがんの患者に比べて、希望表明行動が有意に少ないこと(t=2.29、p<0.05)、不安表出行動(t=2.17、p<0.05)、コミュニケーション行動の合計得点(t=2.13、p<0.05)が有意に低いことが示された。さらに、有職の患者は無職の患者に比べて不安表出行動が多い傾向であること(t=1.79、p<0.10)が示された。その他の属性については、患者のコミュニケーション行動に差は認められなかった。

Table 2. Differencesincommunicationbehaviorsdependingonpatients’demographicvariables
Male (n=21) Female (n=30) <65 yrs (n=29) ≥65 yrs (n=22) Cancer types with higher mortality rates (n=31) Other cancer types (n=20)
M SD M SD t M SD M SD t M SD M SD t
Present Information 7.38 1.96 7.40 2.16 –0.03 n.s. 7.90 1.88 6.73 2.14 2.07 * 7.06 2.29 7.90 1.55 1.43 n.s.
Ask Questions 8.38 1.83 8.80 1.45 –0.88 n.s. 8.72 1.41 8.50 1.87 0.49 n.s. 8.45 1.80 8.90 1.25 1.05 n.s.
State Preferences 7.81 2.20 8.07 1.82 –0.46 n.s. 8.24 1.86 7.59 2.09 1.17 n.s. 7.52 2.19 8.65 1.35 2.29 *
Express Concerns 6.76 2.21 7.07 2.33 –0.47 n.s. 7.69 2.12 5.95 2.10 2.90 ** 6.45 2.51 7.70 1.59 2.17 *
Check Information 6.29 2.51 6.57 2.08 –0.44 n.s. 6.55 2.26 6.32 2.28 0.36 n.s. 6.16 2.35 6.90 2.05 1.15 n.s.
Global 3.95 1.12 4.37 0.67 –1.52 n.s. 4.24 0.79 4.14 1.04 0.41 n.s. 4.13 1.02 4.30 0.66 0.73 n.s.
Total Score 40.57 8.07 42.27 7.61 –0.76 n.s. 43.34 7.34 39.23 7.85 1.93 39.77 8.27 44.35 6.12 2.13 *
Stage I–III (n=14) Stage IV (n=37) Metastasis 0 (n=10) ≥Metastasis 1 (n=41) No Reccurence (n=26) Recurrence (n=25)
M SD M SD t M SD M SD t M SD M SD t
Present Information 7.43 1.34 7.38 2.29 0.10 n.s. 7.00 2.21 7.49 2.04 –0.67 n.s. 7.65 2.17 7.12 1.94 0.92 n.s.
Ask Questions 8.29 1.54 8.76 1.64 –0.93 n.s. 8.50 1.27 8.66 1.70 –0.28 n.s. 8.92 1.44 8.32 1.75 1.35 n.s.
State Preferences 8.29 2.05 7.84 1.95 0.72 n.s. 7.30 2.54 8.12 1.81 –1.19 n.s. 8.15 2.09 7.76 1.85 0.71 n.s.
Express Concerns 7.00 2.25 6.92 2.30 0.11 n.s. 6.90 2.28 6.95 2.29 –0.06 n.s. 6.96 2.37 6.92 2.20 0.07 n.s.
Check Information 6.21 2.22 6.54 2.28 –0.46 n.s. 6.70 2.91 6.39 2.10 0.32 n.s. 6.54 2.35 6.36 2.18 0.28 n.s.
Global 4.43 0.65 4.11 0.97 1.15 n.s. 4.50 0.71 4.12 0.93 1.20 n.s. 4.23 0.82 4.16 0.99 0.28 n.s.
Total Score 41.64 7.37 41.54 8.01 0.04 n.s. 40.90 8.76 41.73 7.62 –0.30 n.s. 42.46 8.38 40.64 7.13 0.84 n.s.
PS0 (n=27) PS1–2 (n=24) Two-or-more-person households (n=44) Livingalone (n=7) Employed (n=15) Unemployed (n=36)
M SD M SD t M SD M SD t M SD M SD t
Present Information 7.41 1.97 7.38 2.20 0.06 n.s. 7.43 2.16 7.14 1.35 0.34 n.s. 7.80 2.04 7.22 2.07 0.91 n.s.
Ask Questions 8.44 1.80 8.83 1.37 –0.86 n.s. 8.64 1.64 8.57 1.51 0.10 n.s. 8.40 1.88 8.72 1.50 –0.65 n.s.
State Preferences 8.07 1.98 7.83 1.99 0.43 n.s. 7.91 2.02 8.29 1.70 –0.47 n.s. 8.33 1.63 7.81 2.10 0.87 n.s.
Express Concerns 6.67 2.08 7.25 2.47 –0.92 n.s. 6.86 2.16 7.43 2.99 –0.61 n.s. 7.80 1.86 6.58 2.35 1.79
Check Information 6.70 2.51 6.17 1.93 0.85 n.s. 6.57 2.24 5.71 2.36 0.93 n.s. 6.53 2.20 6.42 2.30 0.17 n.s.
Global 4.37 0.74 4.00 1.02 1.49 n.s. 4.23 0.86 4.00 1.15 0.62 n.s. 4.13 0.74 4.22 0.96 –0.32 n.s.
Total Score 41.67 7.54 41.46 8.17 0.10 n.s. 41.64 7.65 41.14 9.12 0.16 n.s. 43.00 7.79 40.97 7.79 0.85 n.s.

Cancer types with higher mortality rates = Lungcancer, Gastriccancer, Bowelcancer, Pacreatic cancer;**p<0.01, *p<0.05,†p<0.10, n.s.≥0.10.

3.属性を制御変数とした患者のコミュニケーション行動と診察に対する満足度との関連

患者の属性による患者のコミュニケーション行動に対する影響性を考慮した、患者のコミュニケーション行動と診察に対する満足度との関連を検討するために、患者の年齢、がん種、就業状態を制御変数として、患者のコミュニケーション行動の各下位尺度得点および合計得点と診察に対する満足度得点について、偏相関係数を算出した(Table 3)。その結果、患者の年齢を制御変数とした場合、患者の情報提供行動、情報検証行動および行動の全体評価と診察に対する満足度との間に有意な弱い正の相関関係が認められた(情報提供:r=0.34、p<0.05;情報検証:r=0.28、p<0.05;全体評価:r=0.32、p<0.05)。また、行動合計得点と診察に対する満足度との間に有意傾向の弱い正の相関関係が認められた(r=0.25、p<0.10)。

Table 3. Partial correlation coefficients between communication behaviors and satisfaction controlling for patients’ age, cancer type, and employment condition
Present Information Ask Questions State Preferences Express Concerns Check Information Global Total Score
Patients' age
Satisfaction 0.34* –0.13 n.s. 0.14 n.s. 0.12 n.s. 0.28* 0.32* 0.25†
Cancer type
Satisfaction 0.33* –0.15 n.s. 0.13 n.s. 0.10 n.s. 0.28† 0.32* 0.24†
Employment condition
Satisfaction 0.32* –0.13 n.s. 0.12 n.s. 0.08 n.s. 0.28† 0.33* 0.23 n.s.

*p<0.05, †p<0.10, n.s. ≥ 0.10.

また、がん種を制御変数とした場合には、情報提供行動および行動の全体評価と、診察に対する満足度との間に有意な弱い正の相関関係が認められた(情報提供:r=0.33、p<0.05;全体評価:r=0.32、p<0.05)。また、情報検証行動および行動合計得点と、診察に対する満足度との間に有意傾向の弱い正の相関関係が認められた(情報検証:r=0.28、p<0.10;合計得点:r=0.24、p<0.10)。

就業状況を制御変数とした場合には、情報提供行動および行動の全体評価と、診察に対する満足度との間に有意な弱い正の相関関係が認められた(情報提供:r=0.32、p<0.05;全体評価:r=0.33、p<0.05)。また、情報検証行動と診察に対する満足度との間に、有意傾向の弱い正の相関関係が認められた(r=0.28、p<0.10)。

したがって、患者のコミュニケーション行動と関連が認められた属性を制御変数として患者のコミュニケーション行動と診察に対する満足度との関連を検討した結果、情報提供行動および行動の全体評価と診察に対する満足度について、有意な弱い正の相関関係が認められた。また、情報検証行動と診察に対する満足度については、年齢を制御変数とした場合には有意な弱い正の相関関係、がん種および就業状態を制御変数とした場合には、有意傾向の弱い正の相関関係が認められた。

4.属性を制御変数とした医師に話すことに対する患者のためらいと患者のコミュニケーション行動との関連

患者の属性がコミュニケーション行動に与える影響性を考慮した、医師に話すことに対する患者のためらいと患者のコミュニケーション行動との関連を検討するために、患者の年齢、がん種、就業状態を制御変数として、医師に話すことに対する患者のためらいの下位因子である葛藤およびためらいと、患者のコミュニケーション行動の各下位尺度得点および合計得点について、偏相関係数を算出した(Table 4)。その結果、患者の年齢を制御変数とした場合には、葛藤と、情報提供行動(r=−0.36、p<0.05)、質問行動(r=−0.34、p<0.05)、情報検証行動(r=−0.36、p<0.05)との間に有意な弱い負の相関関係が認められ、希望表明行動(r=−0.43、p<0.01)、不安表出行動(r=−0.47、p<0.01)、および行動合計得点(r=−0.53、p<0.001)との間に有意な中程度の負の相関関係が認められた。あきらめについては、希望表明行動(r=−0.38、p<0.01)、行動合計得点(r=−0.30、p<0.05)との間に有意な弱い負の相関関係が認められ、行動の全体評価(r=−0.45、p<0.01)との間に有意な中程度の負の相関関係が認められた。また、あきらめと不安表出行動との間には有意傾向の弱い負の相関関係が認められた(r=−0.25、p<0.10)。

Table 4. Partial correlation coefficients between communication behaviors and satisfaction controlling for patients' age, cancer type, and employment condition
Present Information Ask Questions State Preferences Express Concerns Check Information Global Total Score
Patients' age
Conflict –0.36* –0.34* –0.43** –0.47** –0.36* –0.15 n.s. –0.53***
Give Up –0.20 n.s. –0.06 n.s. –0.38** –0.25† –0.06 n.s. –0.45** –0.30*
Cancer type
Conflict –0.30* –0.28† –0.41** –0.35* –0.35* –0.14 n.s. –0.47**
Give Up –0.20 n.s. –0.06 n.s. –0.39** –0.26† –0.05 n.s. –0.45** –0.31*
Employment condition
Conflict –0.27† –0.29* –0.37** –0.30* –0.34* –0.15 n.s. –0.42**
Give Up –0.19 n.s. –0.08 n.s. –0.37** –0.23 n.s. –0.06 n.s. –0.47** –0.30*

***p < 0.001, **p < 0.01, *p < 0.05, †p < 0.10, n.s. ≥ 0.10.

がん種を制御変数とした場合には、葛藤と情報提供行動(r=−0.30、p<0.05)、不安表出行動(r=−0.35、p<0.05)、情報検証行動(r=−0.35、p<0.05)との間に有意な弱い相関関係が認められ、希望表明行動(r=−0.41、p<0.01)、行動合計得点(r=−0.47、p<0.01)との間に有意な中程度の負の相関関係が認められた。また、葛藤と質問行動(r=−0.28、p<0.10)、情報検証行動(r=−0.35、p<0.10)との間に有意傾向の弱い負の相関関係が認められた。あきらめについては、希望表明行動(r=−0.39、p<0.01)との間に有意な弱い負の相関関係、行動の全体評価(r=−0.45、p<0.01)との間に有意な中程度の負の相関関係が認められた。また、あきらめと不安表出行動との間に有意傾向の弱い負の相関関係が認められた(r=−0.26、p<0.10)。

患者の就業状況を制御変数とした場合には、葛藤と希望表明行動(r=−0.37、p<0.01)、不安表出行動(r=−0.30、p<0.05)、情報検証行動(r=−0.34、p<0.05)との間に有意な弱い負の相関関係、行動合計得点(r=−0.42、p<0.01)との間に有意な中程度の負の相関関係が認められた。また、質問行動との間に有意な弱い負の相関関係(r=−0.29、p<0.05)、情報提供行動との間に有意傾向の弱い負の相関関係(r=−0.27、p<0.10)が認められた。あきらめについては、希望表明行動(r=−0.37、p<0.01)と行動合計得点(r=−0.30、p<0.05)との間に有意な弱い負の相関関係、行動の全体評価(r=−0.47、p<0.01)との間に有意な中程度の負の相関関係が認められた。

したがって、患者のコミュニケーション行動と関連が認められた属性を制御変数として医師に話すことに対する患者のためらいと患者のコミュニケーション行動との関連を検討した結果、葛藤について、情報提供行動、質問行動、希望表明行動、情報検証行動、行動合計得点との間に有意または有意傾向の負の相関関係が認められた。また、あきらめについて、希望表明行動、行動合計得点との間に有意または有意傾向の負の相関関係が認められた。

考 察

本研究の目的は、患者の満足度と関連する患者のコミュニケーション行動を明らかにし、主治医に話すことへのためらいが、外来がん患者のコミュニケーション行動とどのように関連しているのかを明らかにすることであった。

対象者の属性によるコミュニケーション行動の違いについて検討したところ、年齢、がん種、就業状況によってコミュニケーション行動の頻度が異なることが示された。まず、65歳未満の患者は65歳以上の患者に比べて、情報提供行動と不安表出行動が有意に多いことが示されたが、これは先行研究の知見を支持する結果となった。先行研究により、60歳未満の乳がん患者は60歳以上の乳がん患者に比べて、主治医から直接的に求められていない情報についてより多く提供する傾向にあることが示されている23)。また、高齢患者は若い患者よりも医師に対して敵意や自己防衛的態度を示す傾向があることも示されている24)。これらのことから、若年の患者は高齢の患者に比べて情緒的なコミュニケーションを妨害する心的要因が少なく、患者からの積極的な情報提供や不安の表出が多くなされている可能性が考えられる。

また、死亡率上位のがんの患者は、その他のがんの患者に比べて、希望表明行動と不安表出行動、コミュニケーション行動の合計得点が有意に低いことが示された。先行研究では、がんに対する脅威に対する知覚が高い者は、がんに関する情報獲得に対してより積極的になることが示されており25)、本研究結果は先行研究の知見が示唆するものと異なる結果であった。一方で、がん患者を対象にした面接調査では、主治医に話すことに戸惑う理由として「知りたいけど知りたくない」といった、がん患者が抱えるアンビバレントな側面についても明らかにされている14)。死亡率上位のがんの患者は、死を身近に感じさせる情報に晒される可能性は高くなるが、その一方で、その情報を自ら明らかにすることはしたくない、といった葛藤が現れているとも考えられる。

さらに、有職の患者は、無職の患者に比べて不安表出行動が多い傾向であることが示された。有職の患者は、日々の就業生活に加えて、治療における意思決定や、症状管理といった闘病生活との両立を余儀なくされる。また、有職の患者はがんの罹患をきっかけに職業関連の困難も抱えるといわれており、一般人口に比べて、就業時間や職業関連能力の減少が報告されている26)。このことから、この結果は先行研究の知見と一致するものと考えられる。

本研究の目的の一つである患者のコミュニケーション行動と満足度との関連については、外来患者に必要であるとされるコミュニケーション行動のなかでも、情報提供行動と情報検証行動が診察に対する患者の満足度と関連していることが示された。情報提供行動は、「診察の始めに私が話したいことを医師に伝える」、「今自分がどのように感じているのかを医師にはっきりと伝える」の2項目で構成されている。また、情報検証行動は、「医師からの話は、自分が理解した通り医師に再度伝え直す」、「話を繰り返したり、明確にするよう医師に尋ねる」の2項目で構成されている。これらの項目から、患者の満足度の向上には、患者が医師に話したいと思っている内容を伝えられることや、診察場面での医師からの情報を患者本人から確認できることが重要であるといえる。また、コミュニケーション行動のその他の下位尺度得点と診察に対する満足度との間には有意な相関関係は認められなかったものの、コミュニケーション行動の合計得点と診察に対する満足度との間に有意傾向である弱い正の相関が認められた。このことから、患者の診察に対する満足度の向上には、医師のコミュニケーションスキルの改善だけでなく、患者のコミュニケーションスキルの形成や強化も寄与しうることが示唆された。つまり、医師からの働きかけだけでなく、患者からのコミュニケーション行動が、診察に対する患者の満足度に寄与しうるという先行研究の結果5)を支持する知見が得られたといえる。

次に、主治医に話すことへの患者のためらいとコミュニケーション行動との関連については、「葛藤」と情報提供行動、質問行動、情報検証行動との間に有意または有意傾向の弱いまたは中程度の負の相関関係が認められたことから、仮説を支持したといえる。「葛藤」因子は、「医師との関係性を壊してしまうだろう」、「医師を困らせてしまうだろう」といった項目により構成されており、医師との関係性に対する念慮をはじめとして情報を得るべきかどうかといったためらいを抱いている患者ほど、治療に関する疑問や希望を表現できていないという現状が示された。先行研究では、患者は聞きたいことがあるが遠慮していることや、不安により質問項目リスト以外のことを話せていないこと13)が指摘されており、本研究は先行研究を支持する結果となった。

また、「あきらめ」については、属性を統制した全ての場合において、希望表明行動との間に有意な中程度の負の相関関係が認められた。不安表出行動との間にも患者の年齢またはがん種を統制した場合には、有意傾向ではあるものの弱い負の相関関係が認められた。このことから、「あきらめ」と希望表明行動および不安表出行動が関連している可能性が示唆され、仮説は支持されたといえる。「あきらめ」因子は、「医師に話をしても事態は良くならないだろう」や「医師は情報や経験が少ないだろう」といった項目から構成されており、医師に対する不信感を抱いている患者ほど、医師への自発的な情報提供は少なく、治療に対する希望を伝えることも少ないといった現状が示唆された。また、先行研究では、主治医に対する不信感やあきらめが診察場面において心理社会的な会話を減少させることが指摘されており27)、本研究は先行研究を支持する結果となった。

以上のことから、診察に対する患者の満足度の向上には、情報提供行動および情報検証行動が特に重要であることが示された。また、それらの行動は、患者が主治医に話すことへのためらいのうち、特に情報の取捨選択に対する葛藤によって阻害されている可能性が示された。一方で、主治医は患者からの詳細な情報提供を望んでおり、診察場面において患者からのより多くの質問を望んでいることも明らかとなっている28)。よって、患者のコミュニケーション行動促進のためには、まず、こういった主治医の患者に対する希望について、心理教育を行う場を設けることが有用であると考えられる。また、医療従事者の中でも医師は患者にとって最も活用する情報源であり29)、主治医との直接的なコミュニケーションの改善のためには、主治医自らが患者のためらいの内容を把握し、考慮しながら関わることが重要だといえる。さらに、主治医ばかりでなく、看護師や心理士が仲介役として積極的に患者のニーズを拾い、主治医から患者へのコミュニケーションを橋渡しする関わりが求められるといえる。このような取り組みによって、患者の質問行動を促進したり、診察において自分自身の希望を表明したりすることが可能となり、患者にとって有益な治療が行われることが考えられる。

本研究の限界点として、一施設のみで実施された調査であり、対象者の特徴に偏りが生じていた可能性が高いことが挙げられる。まず、本研究を実施した医療機関は、患者の主たる治療を行っている病院ではなく、補完代替療法として外来通院する形態をとっているため、本研究の対象となった患者の多くが病院の主治医に当該クリニック宛に紹介状を依頼した上で通院を開始している。つまり、本研究の対象者は、当該クリニックでセカンドオピニオンを受けることや、主治医のいる病院で行っている治療に加えて治療を受けることを既に相談できている患者である。このことは、調査対象者が主治医に相談することに対してためらう気持ちが少ないことや、相談することによって主治医との関係性が変化してしまうことを考慮する必要がないまでに、その関係性が成熟している可能性を示唆している。また、膵癌患者が対象者の約3割を占めていること、PS0の患者が多いことは、補完代替療法を提供するクリニックの患者の特徴を表しているともいえ、本研究の結果から疫学的一般性について直接的に言及することはできない。しかし一方で、本調査の実施場所となったクリニックは標準治療を行う場所でなく、補完代替医療を提供するクリニックであったことから、標準治療を行う医療施設での調査では排除することが難しい患者の社会的望ましさをできる限り排除した結果を得ることができたと考えられる。これらのことから、本研究結果の一般化には、補完代替医療を受ける患者に加えて広く外来通院患者を対象とした更なる検討が必要であるものの、診察場面における患者の迷いや困難の内容と患者のコミュニケーション行動との関連をより実情に即した方法によって検討することができたといえる。

謝 辞

本稿執筆に当たり、宮崎大学医学部附属病院の武井優子先生に、多大なご協力、ご指導をいただきました。厚く御礼申し上げます。また、調査にご協力くださいました患者様、ご家族、施設スタッフの皆様に深く感謝申し上げます。

文 献
 
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