抄録
過去,重度精神遅滞者は.彼らの知能障害が重いという理由から作業行動を学習することが出来ないと考えられてきた。ところが,今回,われわれは,そのような22歳男子の重度精神遅滞者に福祉工場で行なわれている自転車みがきの作業行動を学習させ,ある程度のみとおしを得た。手続きは以下のごとくであった。まず最初にこの重度精神遅滞者に4等分した後輪のうちの1つを充分にみがき上げるという課題を与えた。そして,この定められた箇所以外の場所をみがいたとき,言語的注意を与えた。また定められた箇所内ではあるが,すでにみがき終えている部分を何度もみがいたり,みがき残しがあったり,あるいはみがく順序を間違えたりしたときにも,言語的注意を与えた。そして,定められた箇所以外の場所で言語的注意を受けた回数,定められた箇所内で言語的注意を受けた回数,仕上げた時間をそれぞれ記録した。これらの3つの指標のベースライン期の平均値に基づいて,訓練試行終了後,正の強化子を与えた。その結果,訓練が進むにしたがい,言語的注意を受ける回数や仕上げた時間が減少し,みがき行動が形成された。訓練中,弁別行動や自己強化の行動も観察された。訓練終了後,約6ヵ月後の追跡調査は,充分にみがき行動が維持されていることを示した。訓練の結果は,作業行動の学習が不可能であると考えられていた重度精神遅滞者に自転車のみがき行動を学習させ得たことを示唆している。