抄録
妄想的に自己臭を訴えた2症例に対し,薬物を併用した行動療法的接近を試みた。自己臭体験は周囲の何気ない言動によって強められ,対人場面の回避が生じていた。担当医は,においの有無を相手に尋ねるよう指示したが実行は困難であった。症例1(38歳男性,発症後20年)では,抗うっ薬clomipramineを投与したところ症状軽減がみられ,さらに,入院という集団生活を経験する中で上記指示が実行された。その結果,自己臭の訴えは消失し,対人場面の回避も改善された。症例2(16歳男性,発症後6か月)はclomipramineに反応せず,上記指示も実行できず,自己臭体験は持続した。2症例の経過報告に加え,自己臭体験の形成と維持の機制,その治療,および妄想に対する行動療法の適応について考察した。