文化人類学
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アーユルヴェーダは誰のものか : 「伝統」医療・知的財産権・国家
加瀬澤 雅人
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2005 年 70 巻 2 号 p. 157-176

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抄録

近年、アーユルヴェーダは世界的な医療となりつつある。南アジア地域固有の医療実践であったアーユルヴェーダは、今日では世界各地に拡大し、それぞれの地域で新たな解釈が加えられ実践されている。インドにおいてもアーユルヴェーダがグローバル化した影響は大きい。多くの患者が海外からインドに訪れるようになり、南インド・ケーララ州では、このような患者のための滞在施設が乱立し、アーユルヴェーダは一大産業となりつつある。世界とのかかわりのなかで、インドのアーユルヴェーダ実践は変容し再構成されているのである。しかし、アーユルヴェーダがグローバルな産業として発展している現状について、インド現地のアーユルヴェーダ関係者の不安もある。海外でアーユルヴェーダが医療ではなく「癒し」術として広がり、その一方でアーユルヴェーダの生薬や治療法にたいしては先進国の企業によって特許が取られていく。このような状況は、インドのアーユルヴェーダ医師や製薬関係者の海外進出を阻み、アーユルヴェーダを彼らの関与できない方向へと転換している。こうした状況のなかで、アーユルヴェーダの知識・技術に関する権利を国家的に保護し、インド主導で医療・産業としての可能性を世界規模で広げていくために、近年ではこれらの知的財産・技術をインドの「ナショナルな資源」として位置づける動きが生まれつつある。

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2005 日本文化人類学会
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