文化人類学
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表紙等
原著論文
  • カターというモノの社会的生をめぐるカトマンズ在住チベット難民の語りと実践から
    山本 達也
    2025 年90 巻2 号 p. 167-186
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2025/11/21
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    本論文は、カトマンズ在住チベット難民による祝布カターをめぐる語りや実践に着目し、モノとしてのカターが送る社会的生の遷移について論じる。特に、その遷移において、化学繊維製というカターの素材がチベット難民に喚起するイメージや状況理解をもたらす局面に着目する。また、その素材がゆえに中国政府やネパール政府といったアクターが環境問題を名目に政治的に介入する事態において人々がいかに対処しているかを明らかにする。ここでは数人の人々が特定の場所で始めた、カターを「ここでは張らない、燃やさない」という活動に着目し、そうした活動に人々を駆り立てる論理としての業の論理を抽出し、その論理が、人間の力の及ばない、世界を動かす力に対する彼らの説明原理であることを明示する。これらを経て、カターというモノをめぐって人々の実践を通して示される関心が「環境問題」ではなく、自らの良き生と、自らの住まう良き生活世界のあり方を不可分に追求する上で対処すべき「罪業問題」であることを明らかにする。

  • マカオのカジノにおける東南アジア人労働者の事例から
    劉 振業
    2025 年90 巻2 号 p. 187-206
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2025/11/21
    ジャーナル 認証あり

    本稿は、マカオのカジノにおける東南アジア人労働者(外労)を事例に、ギャンブルにおける不確実性との対話の過程で発生する中国人ギャンブラーによる排除について考察する。これまでのギャンブル研究において、ギャンブルに参加するギャンブラーおよび予想をする人は、その個人の属性による区別なく、平等に関与できるということが前提とされてきた。しかし、マカオのカジノでは、主要な客である中国人ギャンブラーたちが東南アジア人労働者との交流を避け、あえて彼らとの間に分断を作り出す様子が見られる。本稿では、マカオのカジノのギャンブル実践を、ダグラスとウィルダフスキー(Douglas & Wildavsky)の「リスクの文化理論」に沿って検討する。中国人ギャンブラーの多くは、「身体的特徴=出自」に基づいた、本質主義的な差別的思考を持っており、「汚い身体」を持つ東南アジア人は不運をもたらすものだと考えている。ギャンブルの不確実性という、中国人ギャンブラーにとってのコスモロジーを清浄な状態に保つため、汚穢=不運と見なされる東南アジア人は排除される。この「ギャンブルとの対話からの排除=ギャンブラー間の分断」は、遡行的・遂行的にギャンブルの世界におけるコスモロジーを作り上げ、コスモロジー自体の確実性を維持することを目的としている。

《特集》難民の経済活動と場所の創造
  • 久保 忠行, 内藤 直樹
    2025 年90 巻2 号 p. 207-218
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2025/11/21
    ジャーナル 認証あり

    This special theme examines the process of creating places from the perspective of refugee economies. Refugee economies are not only a specific and concrete aspect of refugees' lives but also formal and informal intermediaries that bridge their daily life with local communities, nations, and the transnational world. Previous studies critically considered the image of the dependent refugee through the lens of refugee economies. These studies focused on the ways in which refugees can be reconfigured into the existing economic and social order. By contrast, this study discusses places that are created with contradictions and tensions, including interactions with non-humans. This study examines refugee places from three perspectives: uncertainty and placemaking, places without consensus, and places created from devastation. In this introduction, the authors also focus on the existence of non-human agents to approach refugee studies from a cultural anthropological viewpoint.

  • インド・デリーにおけるチベット難民の経済活動と都市形成
    片 雪蘭
    2025 年90 巻2 号 p. 219-236
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2025/11/21
    ジャーナル 認証あり

    本稿では、インド・デリーに生きるチベット難民を事例に、彼らの経済活動や政治的主張の場所である都市空間の創造プロセスを描くことを目的とする。特に、国家や規制を超えた難民の日常生活を理解し、都市を複雑な権力関係や社会的交渉の場として捉えることを目指す。そのために「難民都市論(Refugee Urbanism)」を手がかりとしながら、難民の経済活動がデリーという都市空間をどのように創りあげているのか、その際に多様なアクターとどのように交渉していくのかを明らかにする。

    都市は多様な権威や関係性が交差する政治経済的空間である。都市部に暮らす難民の場合、国家的な庇護体制のみならず、地方自治体や非営利団体、企業やグローバルなネットワークなど多様なアクターと絡み合いながら生きており、様々なアクターの関係が都市の政策によって構築され、それ自体がまた都市を(再)構築する。本研究では、無許可居住地だったマジュヌカティラが、正規化対象居住地となったプロセスに加え、デリーの公式的な「フードハブ」として選定されたことに注目する。具体的には、インドの政策や都市計画がチベット難民社会の経済活動にどのような影響を与えたのか、チベット難民が飲食業に従事してきた経緯を考察しつつ、難民の経済活動や政治的主張が都市をどのように創りあげているのかを明らかにした。

  • 難民の経済活動と地域社会
    久保 忠行
    2025 年90 巻2 号 p. 237-256
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2025/11/21
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    本論文では、タイにあるミャンマー難民キャンプを〈非場所〉として分析する。非場所には、一時性と匿名性に加えて、複数の場所や社会関係が組みなおされる特徴がある。場所と非場所は文字どおりの二律背反ではないことを強調するため、ここでは非場所を〈非場所〉と表記する。本論文では、難民キャンプの経済活動をとおしてつくられる場所の特徴を明らかにする。

    難民キャンプでは、現物支給の支援から電子マネーへと支援方法が変化した。本論文では、まず人びとが電子マネーの不足分をいかに補うのかを明らかにした。電子マネーへの移行は難民の自立を促したとされる。しかし実際には、すでに難民が実践してきた生存戦略で支援の不足分は補われている。難民は、スモールビジネスのほか、YouTube配信や第三国へのモノの送付・販売など多岐の経済活動を行っている。難民は支援の一方的な受け手とみられがちだが、難民キャンプと難民の再定住先(第三国)との関係は双方向的である。この両者を仲介しているのが難民キャンプの周辺村である。キャンプと周辺村の関係はますます密になり、難民キャンプは事実上、地域社会に統合されつつある一方、地域社会自体もキャンプ化しつつある。こうしたヒト・モノ・情報の往来こそが、難民キャンプを〈非場所〉たらしめている。

  • 難民と廃棄物との協働
    村橋 勲
    2025 年90 巻2 号 p. 257-277
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2025/11/21
    ジャーナル 認証あり

    本論文では、ケニアの難民キャンプにおけるロピット難民による広場の創造を事例に、人間と非-人間との絡まり合いのなかで場所がどのように創発し、人々の文化的実践がいかなる効果をもたらすかについて考察する。今日、ケニアの難民キャンプは、グローバルな資本主義経済に組み込まれ、投資と開発を引き寄せるフロンティアとなっている。資本主義のフロンティアに生きる難民の生活はますます不安定になるなか、場所づくりは、共同性を確立し、帰属の感覚を希求する難民による空間的かつ物質的な実践となっている。難民研究における場所に関する議論は、物質論的転回の影響を受け、モノを含めた非-人間と人間との相互構成的な側面に注目する新たな研究潮流を生み出している。これを踏まえ、本論文では、難民の場所づくりを、廃棄物と難民との偶発的な出会いに始まる楽器や装身具の創作、それらを使用するダンスの実践に着目して、人とモノの相互作用のプロセスを明らかにする。このプロセスのなかで、キャンプの官僚的統治とは異なる難民の共同性や秩序が生み出されると同時に、難民と故郷とのつながりや難民間の社会関係が組み直される。

  • 地域統合政策下のザンビアにおける難民セトルメントと再定住地に注目して
    村尾 るみこ
    2025 年90 巻2 号 p. 278-293
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2025/11/21
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    本論ではザンビアで定住する元アンゴラ難民の経済活動をとおして、元難民が暮らす場所の特徴を明らかにした。ここでは、地域統合政策に対する元難民の経済活動を生態人類学分野のサブシステンス経済に関する議論を用いて分析した。元難民のサブシステンス経済は、中南部アフリカ地域で発展してきたものである。つまり、現地の自然環境に依存しつつ、17世紀以降の地域内外の交易、植民地支配と国民国家形成の過程でつくられたものである。ザンビアでは、2014年以降、難民の地域統合政策が開始された。政府は、アンゴラ難民を在留外国人へと法的に移行し、難民セトルメントから再定住地へ移住させる政策をすすめた。それ以降、アンゴラ難民は、元難民と呼ばれるようになった。政府やUNHCRは、元難民に再定住地で定住し経済活動をおこなうことを期待した。しかし元難民の多くは、不安定な再定住地へ移住しなかった。不安定な状況に対処すべく、元難民は、キャッサバとトウモロコシの栽培特性を活かし、自然環境の異なる難民セトルメントと再定住地を使い分けながらサブシステンス経済を営んだ。その際に基盤となったのが、親族関係である。本論が明らかにした元難民の経済活動が創る場所とは、不安定・不確実さを助長する難民政策下を生き抜く過程のなかから生み出されたものである。つまり、サブシステンス経済を営むことで、難民セトルメントと再定住地双方に軸足をおきつつ、必要に応じて国家や市場との関係を選び取る生活の場である。不確実性に直面しつつも、元難民は状況に応じて生活の場を再編し続けている。

  • アジア・アフリカのメガキャンプにおける難民経済と現金給付の関係
    内藤 直樹, 大橋 正明
    2025 年90 巻2 号 p. 294-314
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2025/11/21
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    本論文では、大規模で長期化した難民キャンプ(メガキャンプ)という「管理空間」における難民経済の動態に関する地域間比較研究をおこなう。そのために紛争状況における、しばしば国家を超えるような非公式な経済的・政治的つながり(影のネットワーク)の動態に注目する。そうすることで、グローバルで不確実な世界に生きる諸アクターによる活動の「寄せ集まり」が、逆説的にある種の公共空間(他者同士が暮らす場所)の創発に至る条件について考察する。具体的には生態環境、植民地・脱植民地化の歴史、難民受入政策、難民と受入社会の文化が異なるアフリカとアジアのメガキャンプを対象に、難民やホストが生きるために必要な物質の充足に関わる活動の寄せ集まりが、財の交換が可能な「平和の場」の創発や消滅に至る動態を比較検討する。その際には、2010年代以降の開発援助や人道支援の現場で実装されはじめた、援助の現金給付化の影響に焦点をあてる。人新世のランドスケープ、戦争経済や難民経済および分配の政治に関する先行研究を概観した上で、①アフリカ:2010年代前半に世界最大級のメガキャンプだったダダーブ難民キャンプ(ケニア)と、②アジア:2010年代後半に世界最大級のメガキャンプになったクトパロン難民キャンプ(バングラデシュ)における援助の現金給付化と影のネットワークの関係に関する民族誌的記述をおこなう。

萌芽論文
  • 音楽が寄り添う小さな物語
    田井 みのり
    2025 年90 巻2 号 p. 315-326
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2025/11/21
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    Formerly, Japanese funerals were supported by religious rituals and local customs, providing a shared framework for understanding death. However, in modern society, such collective narratives are becoming less prominent, leaving bereaved families and attendees to individually interpret the meaning of death. In recent years, "musical funerals" have become more common in Japan, with music serving as the central medium for mourning the deceased. This study focuses on the ritualistic nature of music and examines how it accompanies "little narratives" in contemporary Japanese funerals, helping individuals gradually come to terms with their loss. Music at funerals not only shapes the flow of the ritual but also evokes emotions and memories, bridging the gap between formal structure and personal meaning. By analyzing specific examples of music performances, this study highlights how music contributes to diverse ways of accepting death in modern society.

展望論文
  • 敗戦国の人類学と先住民、博物学の眼差しとサバルタンが語れないこと
    初見 かおり
    2025 年90 巻2 号 p. 327-338
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2025/11/21
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    As early as 1931, Kotaro Konobu, an Ainu scholar decried the dehumanizing gaze of wajin (Japanese) scientists toward the Indigenous people. His subaltern voice was silenced as fascination with the wild, indian, and Other gathered momentum in Taisho and early Showa Japan, and intellectuals pursued racist science as a profession in an increasingly chauvinistic state academy. This paper explores why the subaltern cannot speak in contemporary Japanese anthropology by drawing on the work of Mai Ishihara, a multi-racial anthropologist with Ainu roots who brought Indigenous feminism to Japanese anthropology. I argue racism and wajin-chauvinism in the forms of primitivism and romanticism—however subtle—still prevail in Japanese anthropology. What keeps Japanese anthropology still a "wajin public space"(cf. J. Hill's "white public space") are these practices of silencing that occur at the epistemic level—namely, the gaze of Natural-History, the roots of which can be traced to 17th-century Europe.

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