文化人類学
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表紙等
第14回日本文化人類学会賞受賞記念論文
  • ネオリベラリズムに抗する<往路と復路>の人類学
    関根 康正
    2020 年 84 巻 4 号 p. 387-412
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/28
    ジャーナル 認証あり

    本論文は、『社会人類学年報』45巻掲載論文を引き継ぐ形で、現代社会を席巻するネオリベラリズムという思潮を人類学の立場から根底的に批判する一連の研究の中に位置づけられる。アガンベンが指摘するように、生政治が実践される現代社会では代理民主主義という形で「例外状態の常態化」が進行している。現に、世界中で大多数の国民が「ホモ・サケル」状態に置かれるような格差どころか棄民される社会を生き始めている。この20年にわたる私の「ストリート人類学」研究は、現代の苦境で苦しむ被抑圧者、犠牲者の側の視点に立つことを明確に宣言している。それは、このネオリベラリズムという浅薄な進歩の歴史から見れば、「敗者」とされる人々の歴史を「下からのまなざし」で掘り起こし、そこに希望と救済の場所を構築していく作業に傾注する人類学である。故に、周辺化され「ストリート・エッジ」にある人たちが、それでも、生きられる場をどのように構築しているのかを、その同じ社会空間を共有する者として、注目してきた。その立場から、勝者の側の純化した「高貴な」まなざし=「往路のまなざし」のみではなく、他者性と共にある不純で汚れた雑多な敗者のまなざし=「復路のまなざし」を含みこんだ二重化=交差のまなざしが生きられる場には不可欠であることを見出してきた。その延長上で、本論文では、「ストリート人類学」のより確かな理論化に向けて、特に、ストリート・エッジの理解に有益なアガンベンの「例外状態」論を批判的に検討することを通じて、現代社会を生き抜く極限の様式として「往路と復路の二重化のまなざし」を持つ構えが現代人一般に要求されていることを明らかにする。その意味で、基本的にアガンベンの「新たな政治」の実現という目標を共有しているが、『ストリート人類学』のみならずむしろ私の研究の起点になった『ケガレの人類学』にまで遡って行われる独自の思考によって、その目標を真に実現していくための補完として本研究はある。ここでの議論を通じて、『ストリート人類学』が、その発想の基礎において『ケガレの人類学』の到達点をふまえていることが明確に自覚され、その結果、フーコー、メルロ・ポンティ、ベンヤミン、岩田慶治、アガンベンらの諸理論との新たな出会いがもたらされた。そうした先人との対話の総合的な結果としてストリート人類学の基本構造理論がここに提出されている。

論文
  • ケニア海岸地方ドゥルマ社会におけるキリスト教徒達の語り
    岡本 圭史
    2020 年 84 巻 4 号 p. 413-430
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/28
    ジャーナル 認証あり

    本稿の目的は、世界宗教と伝統宗教の対置という図式の検討を通じて、改宗研究の今日的課題の所在を探ることである。ケニア海岸地方に住むドゥルマの間では、妖術や憑依霊が重要な関心事となることに加えて、近年では悪魔崇拝者も注目を集めている。それらの脅威への対処法として施術師達の実践がある一方で、キリスト教徒となることで妖術や憑依霊に対処する人々も増えつつある。悪魔崇拝者や憑依霊をめぐる体験談の検討は、世界宗教と伝統宗教の対置をめぐる、我々自身の先入観を照射する端緒となる。悪魔崇拝者は、都市部に住む富裕層や海外の大企業、更には外国人と重なり合う存在である一方で、キリスト教徒達にとっては、教会の活動を阻害する者でもある。それ故に、キリスト教徒となるドゥルマは、新たに神の敵との対峙をも迫られる。キリスト教徒達はまた、憑依霊をも神の敵として捉える。信徒達の間で憑依霊は専ら神の敵として語られ、その守護者としての役割は聖霊に置換される。こうした状況を我々にシンクレティズムの帰結と見せるのは、ドゥルマ自身の語りよりも、むしろ世界宗教と伝統宗教の対置という、改宗研究において顕著な構図である。実際には、信徒達の語りやドゥルマ語の語彙の中に、伝統宗教という範疇を画定することは困難である。信徒達の語りを基に、伝統宗教と世界宗教の対置や宗教概念、改宗概念の含意を疑うことは、キリスト教徒となる過程を捉える視点の精緻化に通じている。これらの点の検討を通じて、本稿では、伝統宗教と呼ばれてきた領域やいわゆるシンクレティズムの過程を、人々と霊的脅威との交渉戦略として捉えなおす。その上で、都市と農村にまたがるドゥルマの生業戦略を妖術等の脅威と対峙するキリスト教徒達の営為と結び付けて捉える作業を、本稿に続く課題として提示する。

特集 指し示すことをめぐるダイナミクス――言語人類学と指標性
  • 「言語人類学」と「指標性」の概念をめぐって
    名和 克郎
    2020 年 84 巻 4 号 p. 431-442
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/28
    ジャーナル 認証あり
  • グイ/ガナの道探索実践における指示詞とジェスチャーの用法
    高田 明
    2020 年 84 巻 4 号 p. 443-462
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/28
    ジャーナル 認証あり

    1980年代ごろまでに一世を風靡した認識人類学、特に民俗知識や民俗分類に関する研究はその後、明示的に表明されない知識をどう扱うか、民俗知識や民俗分類は誰にとって在来の知識なのか、私たちは他者を本当に理解できるのか、といった諸問題に直面した。言語人類学にコミュニケーション論や会話分析の成果を取り入れつつ展開してきた相互行為の人類学アプローチは、こうした状況への有力な解決策の1つを提供しつつある。ただし、これまでの研究は主に会話の時間的な組織化のされ方に焦点をあててきたため、ジェスチャーなどを含むより広範な相互行為が環境に偏在する資源をどのように活用しつつ組織化されているのかについては未だ検討が不十分である。そこで本稿では、カラハリ砂漠の狩猟採集民・先住民として知られるグイ/ガナの道探索実践を事例として、近称・遠称の指示詞や直示的・描写的ジェスチャーがブッシュの中での移動や涸れ谷での狩猟活動においてどのように用いられているのかに関する相互行為分析を行う。さらにこれらを通じて、グイ/ガナが様々な立場の人々を社会的状況に巻き込みながら環境との関わりを深めていく過程について論じる。

  • ラオスのカップ・サムヌアを事例に
    梶丸 岳
    2020 年 84 巻 4 号 p. 463-481
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/28
    ジャーナル 認証あり

    あらゆるコミュニケーション出来事は場のなかで、さまざまなレベルにおけるコンテクストに埋め込まれ、またコンテクストを生み出しながら展開される。これを分析する上で基盤のひとつとなっているのがパース記号論、なかでも指標性の概念である。本稿では指標性を考える上で中心的役割を果たしている、ヤコブソンの詩的機能論を発展させたシルヴァスティンのコミュニケーション論と、それに依拠した小山の出来事モデル、さらに具体的な詩的実践を分析してきた民族詩学を理論的背景とし、ラオスで追善供養儀礼の夜に行われる掛け合い歌「カップ・サムヌア」がどのようにコンテクストに埋め込まれているのかを分析した。

    カップ・サムヌアの掛け合いは「儀礼に関する掛け合い」、「カップ・トーニェー(疑似恋愛の掛け合い)」、「(おひねりをくれた)聴衆への言祝ぎ」に分けられる。儀礼に関する掛け合いでは現実の場を基盤としつつ象徴的世界を指標し、理念的な追善供養儀礼のプロセスをパフォーマティヴにコンテクスト化する歌が歌われていた。そこではあくまで「今・ここ」と地理的・観念的に繋がった世界として象徴的世界が表現されていた。カップ・トーニェーでは現実とは切り離されたやりとりとして歌が交わされていた。さらに聴衆への言祝ぎでは指標性の高い表現によってこうしたコミュニケーション構造が一時的に変更され、象徴的世界が「今・ここ」に繋げられていた。

    最後にこうした掛け合いを支える、カップ・サムヌアのスタイルを構成するものとして、反復される「一定の音響」の存在を指摘した。カップ・サムヌアはこの一定の音響が指標する解釈枠組みを基盤としつつ、歌い手がフッティングを変化させながらさまざまな「声」を掛け合いのなかに響かせ、多彩な詩的表現を駆使して指標性に基づくテクスト化/コンテクスト化と詩的機能によって象徴的世界と経験世界が繋ぎ合わされていく実践なのである。

  • 図/地の反転、記号過程、或いは南太平洋のリアリズム
    浅井 優一
    2020 年 84 巻 4 号 p. 482-502
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/28
    ジャーナル 認証あり

    現代人類学を特徴づける知的動向が存在論的転回として論じられ、主体と客体、表象と事物、文化と自然などの二項対立を自明とする認識論ではなく、そうした「対」が生起する過程や創発する現実を捉える存在論への転換が希求されるようになった。そのような問題意識を背景とし、本稿では、フィジーにおいて「氏族」や「土地の民」という範疇が生起した過程、そしてオセアニア人類学の理論的変遷を言語の次元に降り立って分析し、存在論的転回および現代人類学における民族誌記述の問題系に言語人類学の視角を接合することを目的とする。その上で本稿は、三段構えをとる。はじめに、1)ヤコブソンがパース記号論を基礎にして展開した詩的言語に関する洞察、それを敷衍したシルヴァスティンの儀礼論を概観し、詩や儀礼が指標的類像化(ダイアグラム化)という記号過程として理解できることを確認する。次に、2)筆者が調査を行ってきたフィジー諸島ダワサム地域での出来事を事例に、フィジー人の民族意識の根幹にある「土地の民」という範疇が、植民地期に遡る「氏族」の文書を通じたダイアグラム化を経て生起したことを指摘し、それが氏族のルーツを辿り、始祖のマナを讃える儀礼的実践を通じて前景化した過程を詳らかにする。最後に、3)ワグナーの比喩論に端を発し、ストラザーンの人格論の基調をなす「図と地の反転」という視座がヤコブソン詩学に類比することを示唆し、連続性を切断して驚異、斬新、潜在を回帰的に実現するメラネシア社会の生成原理が、韻文の生起が伴う詩的効果として理解できることを指摘する。さらに、サーリンズの構造歴史人類学からストラザーンのメラネシア人格論へというオセアニア人類学の推移自体が、同様に記号過程として記述し得ることを示す。以上を通じて、閉じた象徴体系として認識論の中核に布置され、存在論的転回では正面から扱われなかった言語という視角を文化人類学の問題系へ接続し、言語事象を基点にした記述分析に存在論的転回以後の民族誌記述の一所在を見出したい。

  • 南米チキトス地方のイエズス会布教区におけるジェンダー指標の用法から
    金子 亜美
    2020 年 84 巻 4 号 p. 503-521
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/28
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    本論文は、キリスト教化における言語の役割、およびそれが地域社会の言語使用にもたらす影響を扱うものである。17-18世紀のイエズス会布教区における南米先住民のキリスト教化を取り上げ、宣教活動を通じて在来の言語使用に生じた変容と、その長期的な帰結を考察することを目的とする。第Ⅰ章では、指標性およびメタ語用に関する言語人類学の理論的観点を導入し、宣教活動を、言語における社会指標的意味の変容を通じて「キリスト教徒」なる人々を作り出そうとする試みとしてとらえ直す。第Ⅱ章では、事例として扱うチキトス地方のイエズス会布教区の歴史と先行研究について述べる。第Ⅲ章では、先住民言語チキタノ語に存在する「ジェンダー指標」の概要を確認した上で、その指標対象がイエズス会宣教師のメタ語用的モデルを通じて再編されていったことを論じる。第Ⅳ章では、今日チキタノ語が用いられる「説教」と「歌」を事例に、そこにおけるジェンダー指標の異なる用法が、発話自体をそれぞれ異なる二つの「キリスト教的」なものとして指標的に創出していることを示す。第Ⅴ章では議論をまとめ、キリスト教化を経た地域社会を民族誌的に考察する上で社会指標的意味を担う記号やメタ語用に着目することがもつ意義を述べる。

  • 日本の女子中学生が紡ぐジェンダー指標性のエスノグラフィ
    宮崎 あゆみ
    2020 年 84 巻 4 号 p. 522-531
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/28
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    This paper, based on a longitudinal research at a Japanese junior high school, analyzes how Japanese girls wove non-traditional metapragmatic interpretations and indexicalities about their gender-crossing first-person pronouns and how these girls shifted traditional gendered language ideologies at school. Based on post-structuralist theories, which help us analyze language as being constructed moment to moment in a specific context, this paper examines how girls severed the taken-for-granted indexical connection between female and feminine language and created gender independent indexicalities, through daily activities of non-traditional metapragmatic meaning making. The detailed descriptions of how gakkyuu-houkai (collapse of classrooms) proceeded through linguistic and bodily power negotiations between girls and their teacher revealed a shift in the traditional gendered language ideologies in the calssroom. This example shows that linguistic anthropological concepts provide an excellent tool to understand the interactions of social structure and agency, and macro and micro.

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