文化人類学
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表紙等
第16回日本文化人類学会賞受賞記念論文
  • 21世紀の構造主義へ
    春日 直樹
    2022 年 86 巻 4 号 p. 527-542
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/07/20
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    呪術的行為を構成する直裁的な表現は、まったく異なる2つのカテゴリーがいかに結合できるのかを人類学者に問いつづけてきた。本稿はパプアニューギニアの民族誌に報告された呪術的行為を、数学の圏論での同型の観点から再解釈する。まずは、生者の領域で呪術を構成する要素の集合と霊の領域での同様な集合とが同型であることを明らかにして、それによって2つの間に置き換えが可能なほどの等しさが生まれていることを導く。生者の領域における操作は霊の領域における操作と対応し、反対に霊の領域での操作も生者の領域での操作に対応することが必然的に成り立つ。呪術の研究が傾注してきた異なるカテゴリーの結合、特有の因果関係の追求は、このように同型の観念によって簡潔に説明できる。これらはすべて同型に由来しており、同型の必然的な帰結である。隠喩的な表現をはじめとする呪術のもろもろの特徴は、同型からの要請を充たすための工夫や努力とみなせば、その限定的な役割が明らかになる。

    ただし、生者の側の集合の要素と霊の側の集合の要素とが1対1に対応する、という同型の条件はまったく保証されていない。パプアニューギニアの人々はどのように保証されていないのか、どのように努力すべきなのかをよく知っているようであり、この条件下で同型の実現に励み、つまりは呪術の実践をつづけている。呪術的行為は、同型の理念に依拠するとともに同型の実現を志向する、という重要な性質がここに明らかになる。

原著論文
  • 東日本大震災後の人類学的災害研究
    竹沢 尚一郎
    2022 年 86 巻 4 号 p. 543-562
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/07/20
    ジャーナル 認証あり

    私は東日本大震災の発生の翌月に、被災地の1つである岩手県大槌町にボランティアとして行き、その後10年にわたって岩手県や福島県の被災者を支援しながら研究をつづけてきた。震災の2年後の2013年に、震災後の1年半に被災地で何が起きたかを描いたモノグラフを発表したが、本稿はそこでもちいたデータを基礎とし、その後に得た知識と人類学的災害研究で活用される諸概念を加えることで、人類学的災害研究の新たな総合を試みる。

    災害とそれへの対応は長く自然科学の管轄とされてきたが、1980年代に災害を自然環境と社会の相互作用の結果と見なす視点が確立された。そのときキイになったのが「脆弱性(vulnerability)」の概念であった。それぞれの社会が抱える脆弱性を測定し明確化することで、それを管理・改善し、あわせて住民の行動を訓育することで、災害のリスクを縮減しようという発想および政策である。そのことは、近現代の統治形態としての「生−政治」が災害を取り込んだことを意味している。

    この脆弱性の概念は管理者的な発想にもとづくが、それを自分たちの生きられた経験に即して「被傷性」としてとらえ、たがいの被傷性を意識することで共同性を立ち上げて危機を乗り切った集落がいくつか存在する。本稿はそれを、東日本大震災後に顕著になった新自由主義的な復興政策への対抗実践としてとらえ、その可能性について理解を試みるものである。

  • バングラデシュの宗教政党とNGO団体を通した二極政治の構成と「公共領域」の変容
    外川 昌彦
    2022 年 86 巻 4 号 p. 563-583
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/07/20
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    本稿では、バングラデシュのイスラーム主義を掲げる宗教政党と、それを「原理主義」として批判し、世俗主義を標榜するNGO団体との関係を、1990年代を中心とした多様な相互交渉と対立の過程を通して検証する。公共領域でのイスラーム的価値の実現を求めるバングラデシュの宗教政党と、社会開発への取り組みを通して公共領域から宗教の分離を試みるNGO団体との、互いの参照や批判を通した二極政治の形成過程を跡付ける。

    一般にイスラーム主義は、社会のイスラーム的変革を求める政治的イデオロギーや運動とされ、日本語ではバイアスを含んだ「イスラーム原理主義」に代わる用語として用いられるが、実際には、改革運動からジハード主義までを含む多様な用法が見られ、たとえば、日本人7名が犠牲となった2016年のダカ・テロ事件では、イスラーム政党・団体は一括りにイスラーム主義とされた。しかし、イスラーム主義が、西洋近代の「世俗」概念との対比から、それを逸脱する「宗教」運動として一元的に規定されると、それはかつての「原理主義」と同様の問題を内包するだろう。本稿では、バングラデシュの二極政治の構成が、「公共領域」の変容をも導く経緯の検証を通して、イスラーム主義を、「ムスリム社会が国民国家や市民社会を構成する過程で、イスラーム的価値を政治的イデオロギーとして再認識し、実践する運動」と定義する。

特集 世界と共に感じる能力ーー情動、想像力、記憶の人類学
  • デ・アントーニ アンドレア, 村津 蘭
    2022 年 86 巻 4 号 p. 584-597
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/07/20
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    本特集の目的は、情動と身体化された記憶の関係性に着目しながら、そこにおける想像力の役割を明らかにすることである。近年文化人類学的研究は、物質を人間の経験の条件として、身体を「文化と自己の実存的な基盤」[Csordas (ed) 1994]と考える必要性を認識してきた。その中で情動は、認知や言語、個人未満の「強度」に着目してリアリティの発生過程を追うことができる概念として注目され、幅広く人文科学に影響を与えている。しかしこれまでの情動の研究は、身体感覚より感情に重きを置く傾向があり、また、情動の意味、言説未満のあり方を強調し、同質性の高いものと捉えがちであった。そのため本特集ではフィールドにおける身体経験を起点に、言説や意味も含めた絡まり合いを見ていくことで、情動論が抱える諸問題を乗り越えようとする。その上で本論が焦点を当てるのは想像力の役割である。想像力は、これまで実践と言説の修辞的装置として扱われたり、肯定的でロマン主義的に描写されたりする傾向があり、現実を構成するものとしての役割や限界などについて議論されてこなかった。本論は、想像力を精神的な働きや、特別な認知の形態と捉えるのではなく、知覚を基盤とした現実を生成する能力として捉え、実践の中での役割とその働きの特徴を身体的記憶と情動に着目しながら明らかにしていくものである。それにより、想像力、情動と実践の生成に関する視座に新たな地平を開くことを目指す。

  • 上海での気功実践を事例に
    黄 信者
    2022 年 86 巻 4 号 p. 598-616
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/07/20
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    本論は、上海気功研究所で行われる気功実践に注目し、情動、想像力などの身体経験が、「気」を感じることにどのような役割を果たしているのかを明らかする。気功における「気」に関する研究は、主に「気」の物質性についての自然科学的研究と、治療効果についての臨床的研究が挙げられる。一方、中国における気功ブーム期の気功は、時代性に富む社会・文化現象として、社会学・人類学者たちの関心の対象となったが、「気」が、どのように気功実践によって生成されたのかについての記述は十分ではない。そのために、本論はまず、気功実践における「気感」の位置づけについて検討する。それにより、「気」は曖昧な概念であるが、「気感」という共通の身体経験を通して気功実践が構築されていることがわかる。また、気功の教習過程に注目し、具体的にどのような方法で「気」を感じるようになるのかの過程、実践者の身体経験としての情動、そして想像力が「気」を感じるプロセスに果たす役割について検討する。その上で本論では、「気」と呼ばれる概念は、理論的教習だけでなく、実践者の情動によって生成されるものであり、実践者が情動や知識を通して想像する結果、単一の「気」や「気感」ではなく、複数の「気」や「気感」が生成されたことを明らかにする。

  • ポールダンス実践で情動を体現させる生成変化
    コーカー ケイトリン
    2022 年 86 巻 4 号 p. 617-634
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/07/20
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    本論では、ポールダンス実践の生成変化に焦点を当てて、その経験的かつ物質的な側面を明らかにする。その目標は、人類学的な研究における情動の捉え方および伝え方に貢献することにある。まず、情動論的転回とその問題点を紹介する。そして、これまでの情動論が心身二元論の片方あるいは両方を別々の領域としてきた傾向を問題として取り上げる。この問題に対し、本論は人類学における情動論の原点の1つといえるドゥルーズとガタリの『千のプラトー』の第10章をもとに、情動そのものの定義を問い直す。より具体的にいえば、情動の発現をドゥルーズとガタリのいう生成変化そのものと捉える。これを基盤に、ポールダンス実践において実践者の間で最も共有される現象であるアザを出発点とし、アザの思い出、そしてアザがほのめかすエンスキルメントの過程における想像力に注目することで、フィールドでの情動的な次元をより鮮明に浮かび上がらせる。このように情動の実践的かつ身体的な側面を明らかにすることで、人類学における情動概念および方法論の新たな展開を目指す。

  • ベナン南部のペンテコステ・カリスマ系教会の憑依における想像と情動
    村津 蘭
    2022 年 86 巻 4 号 p. 635-653
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/07/20
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    本論は、ベナン共和国南部のペンテコステ・カリスマ系教会のデリヴァランス・ミサにおける憑依を対象に、妖術師、在来信仰の神々が「悪魔」として現れ、現実に参与する様態を情動と想像力、記憶に着目して明らかにする。近年興隆するサハラ以南アフリカのペンテコステ・カリスマ系教会では、妖術師を始めとする在来の諸霊を悪魔とみなし、悪魔との闘いを強調する傾向が強く見られる。先行研究はその現象を政治・経済の急激な変動や、それに伴う苦悩を説明するイディオムとして理解し、身近な出来事と社会背景を接合する想像力として描く傾向があった。しかし、想像の様態を現実理解のための言説として扱うことは、現実自体が想像と様々な人間・非人間の絡まり合いの中で構成されているというダイナミクスを捨象する危険性を孕む。これらの点を踏まえ、本論は現実を形作る知覚に作用する想像力の特徴に焦点をあて、それが働く条件と過程における調整のあり方を、情動と環境の応答の中から明らかにする。それにより、悪魔・妖術との闘いという実践は、妖術師という想像を使って社会・政治の問題を説明するという単純なものではなく、想像、記憶、そして情動が応答的に動く中で妖術師や霊的存在をモノとして立ち上げるという過程であり、またその立ち現れた悪魔・妖術師が新たな現実を切り開く主体として参入することを許していく過程だと論じる。

  • 現代日本の憑依を通した治癒経験における記憶・想像力・エンスキルメントの役割
    デ・アントーニ アンドレア
    2022 年 86 巻 4 号 p. 654-673
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/07/20
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    本稿は、現代日本における「憑き」や「憑依」を通して治癒した人々の経験に焦点を当てながら、精霊が発生する過程や精霊を祓うことによる治療過程を検討する。徳島県にある賢見神社で参与観察した民族誌的データに基づき、情動・感覚、身体化された記憶と想像力との相互関係がいかに治療の効果や治癒と関わるのかを分析する。治療の受け手の治癒過程に注目しながら、情動・感覚、身体化された記憶と想像力の役割を検討した上で、憑依を通した治癒経験を理解するためには、ヒーラー側に焦点を当てるのではなく、受け手に焦点を当てるような分析モデルの方が効果的であると論じる。

萌芽論文
  • COVID-19への対応と社会身体
    木村 周平, 飯田 淳子, 照山 絢子, 堀口 佐知子, 宮地 純一郎, 濱 雄亮, 春田 淳志, 小曽根 早知子, 金子 惇, 後藤 亮平
    2022 年 86 巻 4 号 p. 674-685
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/07/20
    ジャーナル 認証あり

    Since early 2020, the COVID-19 pandemic has been a pervasive global issue eliciting various responses at the local level. Drawing upon anthropologist Yanai Tadashi's concept “body social,” this article aims to discuss what Japanese general practitioners have attempted to protect from the uncontrollable “waves” of the pandemic. Based on the vivid narratives about their shifting patterns of responses from July 2020(the beginning of the so-called “second wave”) to February 2021(the end of the “third wave”), it elucidates how the general practitioners' imaginings of the “body social” to be protected were flexibly transformed according to their perceptions of the pandemic situations in their immediate surroundings, from their physical bodies to their medical institutions, to their chiiki (communities).Their engagements in expanding cooperation with other medical and non-medical actors to protect their chiiki as “body social” pose valuable lessons for anthropologists of infectious diseases and disasters beyond the realm of medicine.

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