文化人類学
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統治的結社とイデオロギー : コートディヴォワールにおける差別的排除的実践に関する考察(<特集>中間集団の問題系)
佐藤 章
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2006 年 71 巻 1 号 p. 50-71

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抄録

コートディヴォワールにおける<国家-中間集団-個人>編制は、植民地期以来今日まで大きく4つの局面をたどってきたが、その局面転換を決定づけていたものは、統治的結社-国家運営という統治的地位に立った政治的結社-が、その地位を正当化するために動員したイデオロギーであった。イデオロギーの具体的形態は局面によって転換しているが、すべての局面に共通することは、統治的地位に立つ中核的主体と従属的な人々を序列化しつつ、この両者を一体として「ナショナル」なものに編制するという論理構造-<メタ・ナショナリズム>-を持つということである。本稿は、1990年代以降のコートディヴォワールで見られる、フランス人、周辺諸国からのアフリカ人、北部人をターゲットとした差別的排除的実践を、この時代特有の<メタ・ナショナリズム>のあり方に由来するものと分析している。本稿の考察からは、統治的結社が、植民地経験、代議制、国民経済の管理者としての政府といった、ポスト植民地近代国家に共通する条件への反応としてイデオロギーを構築していることが明らかになる。国家は結社にとって単なる与件ではなく、その一部となって機能させていく機構であり、そこから発するイデオロギーが領土内に住む住民の人的結合のあり方を強く規定しているのである。このような分析を通して、政治的結社が人類学にとって正当な研究対象であることを示し、さらに、グローバリゼーションという今日的状況を分析する上で不可欠な国家という概念を、人類学の問題意識のうちに導入するひとつの試みを提示するのが本論の意義である。

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2006 日本文化人類学会
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