文化人類学
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地域で学ぶ、地域でつなぐ : 宇治市における文化人類学的活動と教育の実践(<特集>大学-地域連携時代の文化人類学)
森 正美
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2007 年 72 巻 2 号 p. 201-220

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抄録

文化人類学は現代日本社会において、地域と関わり、何ができるのか。そしてその関わりは、文化人類学にとって、また文化人類学教育にとってどんな可能性を開くのか。地域貢献や地域活性化を目的化せず、地域で学ぶ姿勢を忘れず、結果として新たな公共性につながるような文化人類学の実践が求められているのではないだろうか。本稿では、2002年から現在まで、京都府宇治市で取り組んでいる活動の具体的な展開と、そこで模索している文化人類学的な地域との関わり方や教育の可能性を提示する。事例としては、まず筆者が学生や卒業生と共に取り組んでいる研究および地域実践活動であり、地蔵信仰・地蔵盆研究を核として、報告書、ワークショップ、グッズ制作など多様な発信方法を模索する「うじぞー組」の活動を取り上げる。ついで、うじぞー組の活動などを通じて地域で拡がったネットワークを生かして企画された、高校の修学旅行生にフィールドワークの方法論を伝えるための大学、企業、行政の連携事業である「まな旅」プログラムを紹介する。これは、人類学の学びを社会と接合し、学生のキャリア教育の充実をはかる教育的試みでもある。また、これらの活動を通じて、地域内外につながり拡がる関係性の質を分析する。そこには、地域での実践活動を通じて変化していく大学という組織のあり方も含まれている。そして、このような実践活動が、文化人類学が創造性を失わず、「文化」を媒介として人と人をつなぎながら、社会のニーズにも対応した研究と教育を継続し、結果として新たな公共性を生み出していく一つの可能性を有していることを明らかにする。

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2007 日本文化人類学会
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