文化人類学
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対話するフィールド、協働するフィールド : 開発援助と人類学の「実践」スタイル(<特集>人類学的フィールドワークとは何か)
関根 久雄
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2007 年 72 巻 3 号 p. 361-382

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抄録

本稿は、NGO関係者など開発援助の実務に携わる人々と人類学者との相互関係のあり方を「対話」と「協働」の視点から捉え、フィールドにおける人類学者の応用的実践スタイルを提示することを目的とする。1980年代以降の開発援助は、地域住民や女性などの社会的弱者をエンパワーすることに目配りする社会開発が強調されるようになった。とりわけ「住民参加」の理念が重視され、PRAはその代表的な調査法として知られる。参加型開発において、現地の文化的側面に対する配慮は、理念的に自明である。しかしそこで必要とされる「現地の文化」に関する知識や洞察は、適度な情報量とその提示方法によってもたらされるものであり、決して人類学者の書く「厚い」民族誌でもレトリカルな表現を駆使した論考というわけではない。開発援助の実務者たちは、人類学者による社会や文化に関わる情報や助言よりも、支援活動に直接関係する実用的な技術や専門知識を求める。むしろ彼らは、人類学者に対しては、そのような専門家に対する技術的期待とは異なり、現地の社会や人々について語り合う「対話者」(あるいはディスカッサント)としての役割を期待する。本稿では、人類学者がフィールドワークを通して開発援助の文脈に関わることについて、地域住民の視点に寄り添い、社会文化的視点からの解釈を交えながらそのプロセスに参与することを前提に、状況に応じて多様な形態・形式のもとで生み出される人類学者と「現地の人々」との対話やそれに基づく媒介者的・エイジェント的実働(「つなぐ」行為)との連続性を重視する創発的協働を、基本的な実践スタイルとして提示する。そしてさらに、その協働を実体化させるために、従来人類学者から疎遠であった開発援助業界で「常識化」している事柄にも親和性を維持し開発援助の文脈における発話機会を戦略的に確保する必要について指摘することを通じて、開発援助に関わる人々(「現地の人々」を含む)と人類学者との「意味のある」協働の可能性について考察する。

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2007 日本文化人類学会
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