文化人類学
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論文
幼子イエス像をあやす
メキシコ西部村落におけるカトリックの実践を事例に
川本 直美
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2019 年 83 巻 4 号 p. 536-553

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抄録

本稿の目的は、メキシコ西部村落におけるカトリックの実践を事例に、幼子イエスの像と信者の関わり合いに焦点をあて、儀礼だけでなく、神像を日常的に世話(ケア)するという制度化されていない信仰行為もまた神と信者の関係を形成する重要な営みであり、その関係は神聖さと親密さから成立していることを明らかにするものである。

従来の中米の祭礼研究においては、像とは何かしらの意味を象徴するものであり、人間が一方的に意味づけする対象であった。そこでは像が象徴するものについての分析に主眼が置かれていたため、信者にとっての像の存在が十分に検討されているとはいえなかった。しかし本稿では、モノとそれが表象する存在という二重性に訴えることなく人と神像の関係を分析する。教義に則った儀礼だけでなく臨機応変的な関わり方である世話の実践によって、元は神霊の依り代であった像が、この像を身体とした代替不可能な幼子イエスという存在になっていく様子を描き出す。さらにそこからこの神像が体現する個別性と集合性が、一信者と神の関係のみならず、村落共同体の宗教実践を駆動するものとなっていることも明らかにする。

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2019 日本文化人類学会
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