文化人類学
Online ISSN : 2424-0516
Print ISSN : 1349-0648
ISSN-L : 1349-0648
原著論文
「戦闘の時代」の島々
ソロモン諸島マライタ島の初期植民地時代をめぐる歴史人類学的考察
里見 龍樹
著者情報
ジャーナル フリー

2020 年 85 巻 3 号 p. 397-415

詳細
抄録

ソロモン諸島マライタ島では、初期植民地時代(1870~1920年代)において、西洋世界から流入 した銃器により、現地で「オメア」と呼ばれる戦闘や襲撃が一時的に激化したことが知られている。本稿では、同島北東部に住むアシ(またはラウ)において、この「オメアの時代」が今日いかに記憶されているか、また、アシに特徴的な居住形態である人工島がこの歴史とどのように関わってい るかを考察する。 歴史的検討によれば、アシの人工島群は初期植民地時代に急拡大しており、このことは、一部の人工島を戦闘・防衛の拠点として意味付ける語りにもあらわれている。同時にアシの人々は、植民地政府の到来により、戦闘を媒介とする移住の運動が停止したと認識しており、現存する人工島群はそのような歴史的変化を形象化するものとみなされている。

アシの人々は、人工島の多くは、「オメアの時代」が終わってから形成された「新しい」ものにすぎないとしばしば語る。人工島群が初期植民地時代以前に遡る歴史的深度をもたないかのようなそうした語りには、植民地化・キリスト教受容以前の歴史に対してアシが感じている疎遠さがあらわれている。そのように、「オメアの時代」は今日のアシにおいて根本的に「よくわからない」歴史として認識されているが、内陸部への再移住を志向する現代の動きの中で、そのような歴史は新たな関心の対象となりつつある。

著者関連情報
2020 日本文化人類学会
前の記事 次の記事
feedback
Top