文化人類学
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特集 文化と身体の交差点としての食―大地から舌まで
贈与と協働の献立
山形県南陽市A家の饗応儀礼食の記録分析
山口 睦
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2020 年 85 巻 3 号 p. 464-483

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抄録

本稿は、山形県南陽市のある農家に保存されている贈答記録に記された献立、食材の分析から、近世・近代の村落部の饗応儀礼食における食材の商品化や外注料理の浸透の様相を明らかにするものである。また、参加者による食材の贈与や共同調理という協働行為で成立していた饗応儀礼食が、この200年余りでどのように変化したかについても検討する。主な資料とするのは、山形県南陽市の農家A家が保存する302点の私的文書(1772~2002年)である。この私的文書には、葬式・法要、結婚、出産、入院・病気、天災、旅行関係、普請、年祝い・年直し、軍隊関係などの通過儀礼に際する贈り物のやりとりが含まれており、宴会が開かれた際の献立も記録されている。

本稿では、葬式、結婚、年直し、普請の献立を分析し、加工品、野菜、果物、タンパク質の利用について200年間の変遷を明らかにした。また、帳面に記載されるA家と各行事の参列者との間で香典、祝儀、手伝い、品物、食材、饗応儀礼食、引物などが贈与され応答関係がみられた。自給作物の利用は、地域社会が豊かな生産の場であることの表れであり、さらにこれらの献立には食材の贈与と調理における協働という他者との関係性が内包されていた。A家の献立は、記録、保存、参考に調理するというA家における歴史的な身体的行為と、食材を共有し、共同調理を行うY地区という地理的、身体的共同性が交わるところに展開されてきたといえる。

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2020 日本文化人類学会
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