文化人類学
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特集 文化と身体の交差点としての食―大地から舌まで
モンゴル国における飲食と身体的コミュニケーション
風戸 真理
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2020 年 85 巻 3 号 p. 524-544

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抄録

本論は、モンゴル国の牧畜地域における日常的な飲食物と飲食行動のあり方を記述し、飲食を介した身体的コミュニケーションのモンゴル的特質を考察するものである。調査は2004年にモンゴル国ザブハン県でおこなった。

飲食物と飲食行動に関して以下の結果が得られた。第1に、飲食への文化的な意味づけは両義的であった。自身の飲食への言及は忌避され、他者への配慮が飲食物で具現化された。第2に、世帯内での飲食では、昼間は乳茶や馬乳酒でしのぎ、夜に肉料理が食べられた。栄養補給と満足には肉が必須であった。第3に、訪問者への饗応ではこれらの飲食物に、言語的・身体的な挨拶と嗜好品の交換が加わった。

モンゴル国の牧畜地域における身体的コミュニケーションは、物的な不足、社会的な禁忌、そして飲食物を道具よりも手・口・舌で扱う習慣によって惹起されていた。あらゆる他者がゲルに入り、饗応されていたが、そこにはノマド特有の歓待理念とリスクへの対処方法がみられた。飲食を介したコミュニケーションのなかで交換されていたものは、家畜の肉と分泌物(ミルク)、人間の身体と体液(唾液)、その他のモノと言葉、であった。

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2020 日本文化人類学会
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