文化人類学
Online ISSN : 2424-0516
Print ISSN : 1349-0648
ISSN-L : 1349-0648
特集「障害」をめぐる共生の文化——障害の人類学を超えて
カメルーン女性障害者における障害とジェンダー
戸田 美佳子
著者情報
ジャーナル フリー

2023 年 87 巻 4 号 p. 653-669

詳細
抄録

障害者への偏見と性差別という「二重の危機(double jeopardy)」にさらされる機能的な障害のある女性は、フェミニズム研究と障害学という研究上の視座から、異なる女性像とその運動にさらされている。その主眼となるのは、性と生殖に関する権利と、コミュニティ・ケアの是非に関する対照的な見解である。本稿では、フェミニズム研究と障害学の社会モデルの問題点を女性障害者の視点から整理したうえで、カメルーンの都市と農村で生活する成人女性障害者を事例に、地域社会におけるジェンダー役割が彼女らの生業とケアの関係性にいかに影響を及ぼしているのかを考察することにある。先行研究で議論されてきたとおり、カメルーンの女性障害者もまた婚姻関係を結ぶことが困難な社会状況のもとで暮らしているが、出産し、母となることは、彼女たちに母という新たな価値観を生み出し、地域社会と繋がるうえで大切な経験でもある。カメルーンの女性障害者は、「家族」をつくるなかで、障害者としてケアを受ける立場から、ケアを提供する側にもなっていた。ケアの受け手と担い手とのあいだには立場の入れ替わりが難しい、非対称な関係も内在するが、そうしたケアの現場で、ケアされるものとケアするものが双方的な関係を築くことができることをカメルーン女性障害者の事例から明らかにしていく。最後に、未婚の女性障害者という不安定な立場においてもなお、地域社会は彼女たちを社会的に排除するのではなく、社会の一員として包摂していこうとしている姿を、多様な人たちが地域でともに生きる「共生」のあり方として提示する。

著者関連情報
2023 日本文化人類学会
前の記事 次の記事
feedback
Top