抄録
「カ行の発音がおかしい」と訴えて来談した成人男性(以下クライエント)との面接事例を報告する.このクライエントには構音障害が認められなかったが,本人は仕事に支障をきたすほどの苦痛を感じており,心理的問題が疑われた.2回めの面接で筆者はクライエントに対して心理的問題の存在を指摘した.その後,クライエントは精神科を受診し,境界性人格障害(borderline personality disorder)の診断を受けた.今後,こうした心理的問題が言語障害の訴えとなって来談するケースが増える可能性がある.こうした事例にどのように対処するのか,ことばの問題がはらむ心理的諸問題に関し,STが臨床心理学的視点をもつ有用性について考察した.