抄録
11歳時に,交通事故による脳外傷のため両側前頭葉の広範な損傷を受け,注意,行動,言語障害を呈した症例の受傷後1~3年における回復経過および言語指導について報告した.受傷1年後においても,注意の持続の低下,行動およびコミュニケーションにおける発動性の低下,環境刺激への依存,単純で反復的な行動が目立った.言語面では失語症状はみられなかったが,独語,反響言語,早口や語または語の一部を反復するなど発話の流暢性の障害が認められた.また,運動保続的な書字過多を呈した.会話の促進や子ども同士のコミュニケーションに視点をあてた言語指導を行い,顕著な改善が認められたが,受傷3年後においても障害は残存していた.前頭葉障害による行動およびコミュニケーション障害に共通する機序を考慮し,周囲の人の障害の理解と受容や環境の整備を含む長期にわたる指導が重要と考えられた.