抄録
失語症検査と計算課題を50名の失語症患者に施行した.失語症重症度と計算障害の程度には有意な正の相関がみられた.しかし,平均的な集団の他に,重い言語の障害を示しながら比較的保たれた計算能力を示す患者,またはその逆の2タイプの患者が存在した.
計算課題と失語症下位検査の成績の相関をその2群について求めた.非言語性の知的能力が計算能力に影響する最も重要な要因であり,次に聴理解,そして読解が主な要因である.
健常成人に容易なように作られた同一課題を,暗算,筆算,視聴覚同時刺激に対する多肢選択法の3方式で施行した.患者の成績は,課題に用いた言語様式によって異なった.これは,計算式の解読,答えの表出の相に言語能力が関与するためと考えられる.
これらの観察は,失語症患者の計算障害が非言語性の知的能力の低下と言語障害の複合である事を示唆している.