抄録
2歳9ヵ月のとき父親に左頭部を強打されたのち後天性の運動性感覚性失語症と右片麻痺になった女児1例を報告した.本症例は,これらの他に核上性右方注視麻痺などの眼球運動障害も合併していた.脳CT scanにより左第1,第2前頭回を除く全域と右半球の一部に低吸収域認められた.ほぼ2年間の訓練経過で本症例が示した特徴的な言語症状はつぎのようなものであった.現在も継続的な言語療法を施行している.
(1) 言語理解面では,その発達にバラツキがあるが,ほぼ病前の状態にまで回復した.
(2) 言語表出面では,流暢な発話であるが復唱障害・語性錯語・字性錯語・喚語困難・迂回表現などの言語症状がみられ,現在も残っている.これらの改善は緩慢であった.
(3) まとまりのある長い談話,読字,数の意味理解が困難で,将来学習障害が主問題になることが予測された.