抄録
まず,失語症の言語臨床における心理社会的アプローチに関する研究を概観した.次に,言語臨床にカウンセリングを導入する意義について考察し,効果的なカウンセリングは,(1)クライエントおよび家族の自立と受容を援助すること,(2)クライエントおよび家族のコミュニケーション能力の改善を促進することに寄与するとともに,(3)カウンセリングに必要な訓練を受けることによってセラピスト自身のコミュニケーション能力を高めることにも役立つことを指摘した.さらにカウンセリングを臨床に組み入れる方法論について考察を加えた.最後に,失語症の言語臨床の枠組みの見直しを提言した.すなわち,言語臨床には,コミュニケーションの改善を目標とする観点,科学的研究の観点に加えて,自立と受容を目標とするカウンセリングの観点が必要であり,失語症の臨床家にはカウンセリングの基礎的訓練が不可欠であることを指摘した.