抄録
自閉性障害幼児の縦断観察(A児2:0~4:5歳,B児1:8~4:2歳)を通し,初期言語発達と認知の発達の関連を明らかにした.両児とも言葉がほとんどない時期でもPiagetの感覚運動知能の手段-目的,因果性,事物の永続性VI段階および結合遊びの課題を通過し,感覚運動技能に欠陥はなかった.欠陥があったのは描画,象徴遊び,原叙述の身振り,言語の象徴能力であった.A児においてのみ言語獲得がなされ,3歳7ヵ月に,自発の対象指示語を発し,原叙述の身振りのコミュニケーションが出現した.同時期に代置(あるものを他のものにみたてる)の象徴遊び,円錯画,縦・横線の模倣が可能となった.この象徴能力の出現を可能にしたのは特定の人への愛着であった.本研究において,認知能力のうち感覚運動技能は初期言語発達にとり,必要条件であるが,必要かつ十分条件ではないこと,また初期言語発達に関係するのは代置の象徴遊びや描画に示される象徴能力であることが示唆された.象徴を形成する能力は認知技能であるが,象徴の意味や伝達機能は他者との相互交渉の文脈で形成される.最後に象徴能力形成における社会的相互作用の重要性を論じた.