抄録
交通事故による外傷性脳損症例について受傷1年後から約3年間にわたりリハビリテーションを行った.この際,神経心理学的検査としてWAIS-R成人知能診断検査,WMS-Rや三宅式記銘力検査などの記憶検査,一般職業適性検査などを実施すると同時に,連絡帳等による関係者間の情報交換を行い,症例の全体像と日常生活上の問題点をとらえる試みを行った.この結果,各神経心理学的検査からは知能,記憶面の改善が明らかになった.一方,連絡帳などの情報からは心理検査のみでは明らかにしえない遂行機能や思考過程の問題などの心理社会的問題がとらえられ,受傷からの経過とともに多様な日常生活上の障害が示されることが明らかになった.検査のみではなく,このような心理社会学的問題を知ることは,訓練を実施する上で非常に有効であった.