1983 年 20 巻 1.2 号 p. 19-32
以上をまとめると,次のとおりである。
1.受刑者を対象として,なんらかの防衛的構えを引き起こすような事項について質問紙調査を実施するとき,その自己評定結果は,防衛的回答態度によってある程度歪曲されていると考えられ,必ずしも受刑者集団の「現実像」を正しく反映しているとはかぎらない。
2.質問紙調査における回答歪曲の程度は,MJPIのLi尺度やEd尺度によって測定される意識的又はやや無意識的な自我防衛的構えが強いほど大きなものになることが示唆された。しかしながら,その種の防衛的態度による回答歪曲は,性格や行動の特徴を問う質問項目ではかなりはっきりと示されるものの,意識調査的な質問項目においては,さほど顕著なものではない。
3.意識調査的な質問項目に影響を与える防衛的構えとは,迎合的あるいはタテマエ的な回答態度であり,一般的に受け入れられやすい無難な回答を示すことによって個人的な心情の表出を控えようとする態度であるとみられる。
4.上述したような防衛的な構えは,所属集団評定においては比較的弱くなると考えられる。したがって,自己評定結果よりも所属集団評定結果の集積のほうが被験者集団全体の「現実像」により近似していることも考えられるが,断定はできない。
なお,言うまでもなく,以上の知見は,暫定的なものであり,より正確な知見を得るためには今後の研究に待つところが大きい。
今後の研究課題としては,例えば次の諸点が挙げられる。(1)被験者数を増やし,又は質問事項を多くして,大規模な調査を実施すること。(2)質問項目を更に洗練すること。(3)パーソナリティの特性に応じ,被験者をきめ細かく群化して比較検討すること。(4)バイアス質問法(例えば「たいていの受刑者は自分の刑期は長すぎると思っているものですが,あなた自身はどう思っていますか」といったバイアスをかけた質問形式)を活用するなどして,質問形式にバラエティを持たせ,あるいはさまざまな実施条件を設定するなどして研究を重ね,被験者の内心の「現実像」へ更に接近を試みること。