抄録
テーラーメイド医療は,試行錯誤をできるだけ減らし,最低限の副作用と最大限の効果を生み出す治療法を予測することを目標にした概念であるといえるが,高血圧の分野においてはまだ確立されたものはない.表1こ示すように,Laragh博士が唱えたレニン活性値をもとにした薬剤選択は,テーラーメイド医療の走りであったかもしれない.現在のエビデンスとガイドラインを主体にした治療法においては,個人の病態をリスクや合併症によって層別化したうえで治療指針を決めるようにしており,ある程度テーラーメイド医療に近づいたといえる.しかしながら実際には,血圧値や副作用の有無に基づいて試行錯誤的に治療法を選択する機会が多い.ヒトゲノム解析が終わり,テーラーメイド医療に必須の個人情報を遺伝子レベルで網羅的に解析することが可能になりつつあり,医療全般においては,最近の遺伝薬理学の進歩や各種疾患の遺伝子解析によってテーラーメイド医療が一部実用化されつつある.高血圧やその合併症に関しても候補遺伝子解析に加えてミレニアムプロジェクトをはじめ網羅的な遺伝子解析が進められており,テーラーメイド医療に向けてデータが蓄積されている.本稿では,高血圧のテーラーメイド医療の現状と将来について,高血圧関連遺伝子解析,遺伝薬理学の観点からそれぞれ概説する.