虚血性心疾患による死亡の多くは病院外で発生し欧米ではそのおよそ2/3は病院外での心停止であると報告されている.わが国のいくつかの地域を網羅した大規模なアンケート調査においても,急性心筋梗塞による死亡の半数は,病院外での死亡であったという.また,心臓突然死に陥った患者の多くは重篤な心疾患の既往をもっておらず,心臓突然死そのものがしばしば心血管疾患の最初の兆候であるため,その予防は難しい.こうした背景から欧米では病院外心停止症例の予後改善のためのプレホスピタルケアの整備が重視されてきた.自動体外式除細動器(automatedexternal defibrillator: AED)を用いた市民による除細動(public access defibrillation: PAD)プログラムはその典型である.しかしわが国においては,病院外での突然死にまで目を向けて,心疾患の予後を検討した研究はきわめて限られていた.PCI (percutaneous coronary intervention)をはじめとした虚血性心疾患に対するホスピタルケアは目覚しい進歩をとげ,急性冠症候群の病院到着後の死亡率は10%以下にまで下がってきているが,今後,心疾患に対する治療の質をさらに高めていくためには,ホスピタルケアの充実のみでは不十分であり,病院到着前の心停止にも目を向け,プレホスピタルケアを充実させていくことが緊要な課題となっている.本稿では,世界的にも類をみない規模で継続中の,ウツタイン大阪プロジェクトで得られたデータをもとに,わが国における病院外心原性心停止症例の特徴と予後,今後の課題について概説する.
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