大動脈炎症候群の活動性の指標として血沈,C反応性蛋白(CRP)が用いられるが,陰性にもかかわらず急速な血管病変,大動脈弁閉鎖不全の進行を認めた1例を経験したので報告する.症例は55歳,女性.2008年2月に胸痛,失神を主訴に当院へ緊急搬送された.トロポニン陽性,心筋逸脱酵素の上昇を認め,心臓カテーテル検査で右冠動脈(RCA)入口部90%狭窄,左冠動脈主幹部(LMT)90%狭窄とRCAより左冠動脈へ側副血行路を認めた.両側冠動脈入口部病変に加えて右腕頭動脈狭窄を認め大動脈炎症候群が疑われたが血沈,CRPは陰性であった.弁膜症は認めなかった.急性心筋梗塞の診断で大動脈内バルーンパンピング挿入後冠動脈バイパス術(CABG)3枝を施行した.術後合併症なく3月に退院したが同年11月,労作時胸痛を主訴に再入院精査を行ったところ左内胸動脈が狭小化しRCA入口部99%,LMT totalと進行するとともに大動脈弁左冠尖の左室側への落ち込みによるIII度大動脈弁閉鎖不全を認めた.12月に大動脈弁置換術とCABG 1枝を施行した.病状の進行から術後ステロイド投与を開始し2009年1月に退院した.その後進行する右腕頭動脈狭窄,左総頸動脈狭窄に対してステント留置を行い,冠動脈病変,バイパスグラフト病変の進行に対しては経皮的冠動脈形成術を行い重篤な心血管イベントなく経過したが2010年9月に悪性副腎腫瘍の破裂による出血で失った.