日本心臓血管外科学会雑誌
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巻頭言
原著
  • 今田 涼, 大野 文也, 山下 雄史, 永冨 脩二, 立石 直毅, 峠 幸二, 金城 玉洋
    2026 年55 巻2 号 p. 41-46
    発行日: 2026/03/15
    公開日: 2026/04/01
    ジャーナル フリー

    [目的]開心術後の手術部位創部感染(surgical site infection: SSI)発生率は1~10%と報告されている.特に深部胸骨感染(Deep sternal wound infection: DSWI)は,入院期間の延長による患者のQOLの低下や医療費の増大に加え,死亡率も高く重篤な合併症である.SSI予防のためにさまざまな方法が報告されているが,SSIハイリスク症例においてSSI予防目的に手術閉鎖創に対する閉鎖切開陰圧療法(ciNPT: closed incision Negative Pressure Therapy)が本邦で2021年4月より保険適応となった.当院ではciNPTを2021年7月から導入し,適応のある患者には積極的に使用している.本研究ではSSIハイリスク症例において,ciNPTによる開心術後のSSI予防効果について検討することを目的とした.[方法]2020~2022年に施行した胸骨正中切開を伴う開心術のうち,SSIハイリスク患者306例を対象とした.ハイリスク患者は,高度肥満(BMI≥30),HbA1c≥7.0%の糖尿病,両側内胸動脈採取,慢性維持透析,ステロイド内服,免疫抑制剤内服,8時間以上の長時間手術,再手術,創傷治癒を阻害しうる皮膚疾患,活動性感染性疾患のうち1つでも満たす症例と定義した.標準ドレッシング剤を使用したControl群(145例)とciNPTを用いたciNPT群(161例)に分類し,術後30日以内のSSIやそのリスク因子について統計学的検討を行った.[結果]総SSI (ciNPT群5例vs control群:12例;p=0.04)は有意に減少を認めた.表層SSI(ciNPT群3例vs control群:4例;p=0.71),DSWI (ciNPT群2例vs control群8例;p=0.05)は有意差を認めなかったものの,減少傾向を認めた.多変量解析ではciNPTがSSIの予防因子であり,SSI発生率を73.2%減少させた(オッズ比0.268;95%信頼区間0.081~0.891).[結語]SSIハイリスク患者に対するciNPTはSSIを減少させる可能性が示唆された.

症例報告[先天性疾患]
症例報告[成人心臓]
  • 横山 雄一郎, 圓本 剛司
    2026 年55 巻2 号 p. 52-56
    発行日: 2026/03/15
    公開日: 2026/04/01
    ジャーナル フリー

    ペースメーカーの右心室リードは三尖弁に直接干渉するため大小必ず弁逆流の原因となる.よってリードの移植後は三尖弁の状態を十分に観察していく必要がある.以前は心尖部への植え込みが一般的であったが近年心室中隔方向への植え込みが推奨されており,なお弁尖への影響が心配される.症例によりリードの走行が異なるため弁尖への影響もさまざまである.手術においては心内膜リードを心外膜リードへ変更し三尖弁置換術を行うという考え方もあるが,心外膜リードがMRIに対応していないこと,三尖弁置換術の成績が不良であることを考慮するとリードを温存したま形成術を行うことが望ましい.今回われわれはリードによる弁尖への干渉と右心室の拡大によるtetheringが原因の重度三尖弁閉鎖不全症症例に対しlead fixation法およびspiral suspension法を用いて形成術を行い良好な結果を得た.複雑な三尖弁病変に対しても術式を工夫し形成術を完遂することが大切である.

  • 佐藤 大樹, 中島 雅人, 大澤 いくみ, 横山 毅人, 津田 泰利
    2026 年55 巻2 号 p. 57-60
    発行日: 2026/03/15
    公開日: 2026/04/01
    ジャーナル フリー

    われわれは,心筋梗塞後に僧帽弁後尖のtetheringを認めた重症虚血性僧帽弁閉鎖不全症(IMR)の60歳男性の1例を報告する.亜急性期に,自己心膜を用いた弁尖拡大および二次腱索切断を併用した僧帽弁形成術を施行した.術後経過は良好であり,術後5年の心エコーにおいても僧帽弁逆流の再発は認められず,左室機能の改善も得られた.本症例は,左室への直接操作が困難な状況において,弁尖拡大と二次腱索切断を組み合わせた僧帽弁形成術が,亜急性期のIMRに対する有効な外科的選択肢となる可能性を示唆している.

  • 当广 遼, 中井 秀和, 山田 章貴, 森本 喜久, 顔 邦男, 麻田 達郎
    2026 年55 巻2 号 p. 61-64
    発行日: 2026/03/15
    公開日: 2026/04/01
    ジャーナル フリー

    高齢者における重症二弁疾患は,外科的侵襲によるADL低下のリスクから治療に難渋することが多い.本症例では段階的低侵襲治療Balloon aortic valvuloplasty(BAV),Totally endoscopic mitral valve plasty (MICS-MVP),Transcatheter aortic valve implantation(TAVI))により良好な結果を得たため報告する.症例は86歳女性.近医で弁膜症を指摘され経過観察中,呼吸困難と喘鳴を主訴に紹介された.経胸壁心エコー検査で腱索断裂を伴う後尖逸脱による重症僧帽弁閉鎖不全症および高度石灰化を伴う重症大動脈弁狭窄症を認めた.内科的治療では心不全の改善が得られず,段階的低侵襲治療を選択した.入院4日目にBAVを施行し症状改善を認めた.つづいてMICS-MVPを施行し,退院3カ月後にTAVIを行い治療を完遂した.術後合併症なく経過し,いずれの治療後も早期離床が可能でADL低下なく自宅退院となった.重症二弁疾患に対する段階的低侵襲治療は,高齢者のADLを維持しつつ安全に治療を完遂できる有用な選択肢である.

  • 大友 勇樹, 大友 有理恵, 北村 律, 山本 信行
    2026 年55 巻2 号 p. 65-68
    発行日: 2026/03/15
    公開日: 2026/04/01
    ジャーナル フリー

    左回旋枝の起始異常は,冠動脈起始異常の中でも良性とされており無症状のままで経過する場合がほとんどであるが,大動脈弁および僧帽弁の手術を行う際,その解剖学的な位置関係から支障をきたすことが報告されている.今回われわれは,左回旋枝起始異常を伴った僧帽弁逸脱症に対して僧帽弁形成術を施行した1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.59歳女性,息切れと体重増加を主訴に当院循環器内科を受診した.心エコー検査でA1の腱索断裂による僧帽弁逸脱症と診断され,僧帽弁形成術を施行する方針となった.術前の冠動脈評価にて左回旋枝が右バルサルバ洞から起始し,僧帽弁前尖側の弁輪に沿って走行している異常が認められたことから,弁輪形成については左回旋枝への干渉を避けるためにリングではなくバンドを選択した.A1に一対の人工腱索を再建し,術後の心エコーでは弁逆流の消失を認めた.冠動脈CTAにてバンドと左回旋枝との距離は離れていることが確認できるが,もし弁輪形成にリングを選択していた場合には,左回旋枝に大きく干渉していた可能性がある.今後僧帽弁手術において同様の起始異常が認められた際には,本報告が左回旋枝の虚血イベントを回避し,安全に弁形成を行う上で参考になり得ると考える.

  • 藤井 裕美, 伊藤 丈二, 田端 実
    2026 年55 巻2 号 p. 69-72
    発行日: 2026/03/15
    公開日: 2026/04/01
    ジャーナル フリー

    症例は骨形成不全症の45歳男性.身長113 cm,体重28 kg.4年前から無症候性大動脈弁閉鎖不全症で経過観察されていたが,急速な心機能低下を認め1年前より心不全入院を繰り返していた.左室収縮末期径(LVDs)73 mm,左室駆出率(EF)20%,胸郭変形による高度拘束性換気障害も認め,手術はリスクが高く他院で手術適応なしとされ,当院紹介となった.体格や低心機能,低呼吸機能など胸腔鏡下右小開胸アプローチ(MICS)に不向きな要素があったが,骨の脆弱性を考慮し,胸骨切開を避けるメリットが大きいと判断し,胸腔鏡下MICSアプローチによる大動脈弁置換術(AVR)を施行した.術後は心不全管理に時間を要したが,術後53日目に自宅退院した.術後5年現在,心不全症状はなく車椅子テニスを楽しめるまでに回復している.

症例報告[大血管]
  • 上田 秀保, 飯野 賢治, 牛島 将希, 坂井 亜衣, 野坂 裕, 中堀 洋樹, 山本 宜孝, 村田 明
    2026 年55 巻2 号 p. 73-77
    発行日: 2026/03/15
    公開日: 2026/04/01
    ジャーナル フリー

    症例は31歳,男性.後腹膜腫瘍が下大静脈に浸潤し,さらに総腸骨静脈血栓を認めたため,IVCフィルターが先行して留置された.後腹膜腫瘍は悪性奇形腫の腹部リンパ節転移であり,術前化学療法が施行された.化学療法によって病勢は制御され,腫瘍の完全切除により治癒が期待できると判断され,手術目的に当科紹介となった.両側腎静脈合流部の下大静脈へ到達するため,Cattell-Braasch法で下大静脈にアプローチした.腫瘍は下大静脈と腹部大動脈に浸潤していた.完全切除のためには,両大血管を含めたen bloc切除が必要であった.下大静脈と腹部大動脈を遮断し,腫瘍切除を行った.下大静脈はIVCフィルター留置部を遮断し,リング付きePTFEグラフトで置換した.腹部大動脈はDacronグラフトで置換した.術後CTで人工血管の開存を確認し,遮断したIVCフィルター関連の合併症は認めなかった.現在,術後2年が経過し,再発や血管イベントを認めず外来通院中である.IVCフィルター留置後の下大静脈置換術は稀であるため,文献的考察を交えて報告する.

  • 賀来 大輔, 平居 秀和, 村上 忠弘, 瀬尾 浩之
    2026 年55 巻2 号 p. 78-82
    発行日: 2026/03/15
    公開日: 2026/04/01
    ジャーナル フリー

    IgG4関連腹部大動脈瘤のうち,嚢状瘤の頻度は数%とされる.複数の嚢状瘤を呈するIgG4関連腹部大動脈瘤の1例を経験した.症例は73歳・男性.前立腺肥大のフォロー目的のCTにて偶発的に腎動脈下腹部大動脈に最大短径30~35 mmの複数の嚢状瘤と大動脈周囲組織の肥厚および左尿管狭窄・水腎症を指摘された.造影CTでマントルサインを,血清IgG4=178 mg/dlと上昇を認め,IgG4関連腹部大動脈瘤疑いにて人工血管置換術を施行した.術中,大動脈壁の肥厚と光沢および周囲組織との高度癒着を認めた.大動脈壁の病理組織学的検索にてIgG4関連疾患の診断基準を満たし,確定診断を得た.術後CTにて左尿管狭窄・水腎症は軽減しているものの残存していたため,残存する後腹膜の炎症に対して術後30日目よりプレドニン20 mg/日でステロイド加療を開始したところ,術後6カ月のCTで左尿管狭窄・水腎症は消失した。ステロイドを漸減したがIgG4の再上昇や他部位大動脈の瘤化なく,術後24カ月でステロイド投与を終了した.現在も外来で長期経過観察中である.

  • 小坂 淳生, 神田 桂輔, 本吉 直孝
    2026 年55 巻2 号 p. 83-88
    発行日: 2026/03/15
    公開日: 2026/04/01
    ジャーナル フリー

    症例は50歳代,男性.30歳代時に大動脈弁輪拡張症にて,機械弁を用いた大動脈基部置換術を施行された.術後22年目に心窩部不快感を訴え来院し,右心不全と診断された.精査にて右冠動脈(Right Coronary Artery; RCA)吻合部の仮性瘤を認めた.仮性瘤が右心房に穿破し右心不全を呈したと診断し,RCA吻合部のパッチ閉鎖,Coronary Artery Bypass Grafting; CABG(Aorta-Saphenous Vein Graft; SVG-RCA#1),右心房瘻孔閉鎖を施行した.大動脈基部置換術における冠動脈吻合において,Inclusion法による吻合部仮性瘤が報告されてきた.近年Carrel patch法などを用いることで仮性瘤発生率は低下している.また仮性瘤が右心房に穿破した症例はさらに稀である.われわれはCarrel patch法を用いたが仮性瘤を生じ,右心房への穿破と右心不全を呈した症例を経験した.文献的考察を加えて報告する.

症例報告[末梢血管]
  • 中村 優飛, 髙木 寿人
    2026 年55 巻2 号 p. 89-93
    発行日: 2026/03/15
    公開日: 2026/04/01
    ジャーナル フリー

    膝窩動脈より末梢の感染性動脈瘤はきわめて稀で,感染性後脛骨動脈瘤の報告はさらに限られる.基礎疾患は感染性心内膜炎や体内挿入人工物感染など重篤であることが多い.われわれは,肺炎による菌血症に続発し,感染性と考えられた後脛骨動脈瘤の1例を経験したので報告するとともに英文報告例の集計を行った.自験例は77歳男性で,誤嚥性肺炎と深部静脈血栓に対して治療中の第26病日に,突然右下腿に疼痛を伴った硬結が出現し39×49 mmの後脛骨動脈瘤を認めたため準緊急的に瘤切除を行った.術後合併症はなかったが,COVID-19感染症に罹患して肺炎が増悪し,第73病日に呼吸不全で死亡した.感染性後脛骨動脈瘤は稀であり,治療法について一定の見解はない.われわれの集計によると本疾患は瘤関連死亡の報告こそないが,感染性心内膜炎や菌血症など重篤な基礎疾患を持つことが多く,本疾患を認めた際の予後が悪いことが示唆された.

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