日本心臓血管外科学会雑誌
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巻頭言
症例報告[成人心臓]
  • 菅野 令子, 泉 聡, 邉見 宗一郎, 築部 卓郎
    2024 年 53 巻 5 号 p. 251-254
    発行日: 2024/09/15
    公開日: 2024/10/01
    ジャーナル フリー

    症例は68歳男性.自動釘打ち機点検中に釘を誤射し胸腔内へ刺入したため救急搬送され,ハイブリッドERの胸部CT検査では左心室ならびに下行大動脈を貫通し第11胸椎椎体へ刺入する9 cm長の釘を認めた.ただちに,左開胸,人工心肺使用下に釘抜去,左心室ならびに下行大動脈修復術を施行し,大きな合併症なく救命しえた.ネイルガンによる鋭的心臓・大動脈の同時損傷は非常に稀な病態であり,術式や人工心肺の使用について当院の経験を含めて報告する.

  • 浦島 哲大, 榊原 賢士, 中島 博之, 萩原 裕大, 中村 千恵, 四方 大地, 武居 裕紀, 白岩 聡, 本田 義博, 加賀 重亜喜
    2024 年 53 巻 5 号 p. 255-258
    発行日: 2024/09/15
    公開日: 2024/10/01
    ジャーナル フリー

    症例は,60歳代女性.胸痛のため前医を受診した.胸痛精査のため心電図検査を行ったところV3~V6 ST低下,aVR ST上昇,I,II,aVL,aVF 陰性T波を認め,血液検査でCK-MBおよびトロポニンIの上昇を認めた.造影CTではsinotubular junctionより遠位に解離の所見を認めなかった.急性心筋梗塞が疑われ冠動脈造影が実施された.冠動脈口にカテーテルを挿入できなかったため大動脈造影を行ったところ,バルサルバ洞内にflapを認め急性大動脈解離と診断された.当院へ搬送後,緊急手術(大動脈基部置換術)を施行した.術中所見:エントリーはバルサルバ洞内にほぼ全周にわたってらせん状に存在していた.内膜,弁尖が左室内腔へ落ち込み,左右冠動脈入口部も圧排されていた.そのため術前から大動脈弁閉鎖不全,心筋梗塞を合併したと考えられた.術後,経過は良好で,術後14日目に自宅退院となった.今回バルサルバ洞内に限局した急性大動脈解離により心筋梗塞と大動脈閉鎖不全を併発した症例に対し,大動脈基部置換術を行い良好に経過した.このような症例の救命のためには,たとえ造影CTで大動脈解離の所見が乏しくても,その可能性を念頭においた迅速な診断が重要であると考えられた.

  • 森 久弥, 髙木 寿人, 波里 陽介, 内藤 敬嗣
    2024 年 53 巻 5 号 p. 259-262
    発行日: 2024/09/15
    公開日: 2024/10/01
    ジャーナル フリー

    症例は突然右片麻痺を発症した63歳女性で,左中大脳動脈領域の基底核・前頭葉・頭頂葉の多発性脳梗塞と診断された.脳梗塞の原因と考えられる左房粘液腫が見つかり,その摘出手術の待機中に,脳梗塞再発予防の目的でヘパリンによる抗凝固療法を行ったところ,脳梗塞発症から8日目に運動性失語を発症した.正中偏位を伴うほどの,左側頭葉・前頭葉の広範な出血性脳梗塞と診断されたため,抗凝固療法は中止した.出血性脳梗塞から6週間の間隔を空けた上で左房粘液腫を摘出し,新たな脳神経学的合併症を起こすことなく,軽快退院した.左房粘液腫に広範な出血性脳梗塞を合併しても,待機中に脳梗塞再発の可能性はあるものの,十分な間隔を空ければ,安全な摘出手術が可能であると考えられる.また,脳梗塞後の手術待機中における脳梗塞再発予防の抗凝固療法は出血性脳梗塞合併の危険があるため避けて,早期手術を検討すべきである.

  • 嶋田 隆志, 有吉 毅子男
    2024 年 53 巻 5 号 p. 263-266
    発行日: 2024/09/15
    公開日: 2024/10/01
    ジャーナル フリー

    症例は66歳,女性.不安定狭心症,心房細動の診断のもと冠動脈バイパス(CABG: Coronary Artery bypass graft),左右肺静脈隔離術,左心耳閉鎖術を施行.術直後は通常の術後経過同様にドレーンから淡血性排液が少量みられる程度であったが,術後15時間程度経過したころからドレーンから300 ml/4 hの漿液性排液が認められた.以降も1日量500~900 mlと多量の排液が続いた.食事開始後も漿液性であり,一般的な乳糜胸を伴うリンパ漏とは異なった経過であった.生化学検査や性状からはリンパ漏が疑われたために乳糜胸に準じて,脂肪制限食,オクトレオチド皮下注を開始するも,ドレーン排液は持続した.最終的に診断と治療を目的としたリピオドールによるリンパ管造影検査を行うことで,リンパ漏の改善を得ることができた.

症例報告[大血管]
  • 山内 博貴, 大橋 壯樹, 景山 聡一郎, 児島 昭徳, 森田 英男, 菱川 敬規, 曽我部 博文
    2024 年 53 巻 5 号 p. 267-269
    発行日: 2024/09/15
    公開日: 2024/10/01
    ジャーナル フリー

    急性A型大動脈解離では意識消失による転倒にて外傷を伴うことがある.意識障害が遷延する場合,術前に見逃されることがある.症例は81歳女性.意識消失を伴う急性A型大動脈解離破裂にて緊急手術となった.術前ショック状態で,心タンポナーデ解除後も改善が乏しかった.部分弓部置換術(腕頭動脈再建)を施行した.閉胸前に大量の血性腹水を認め,試験開腹にて転倒による外傷性肝損傷と診断し,ガーゼパッキングおよびABTHERA®(3M,ミネソタ州,アメリカ合衆国)装着にて手術を終了した.翌日,二期的に閉腹した.術後経過は良好で,リハビリテーション継続のため転医した.

  • 森 久弥, 髙木 寿人
    2024 年 53 巻 5 号 p. 270-273
    発行日: 2024/09/15
    公開日: 2024/10/01
    ジャーナル フリー

    症例は87歳女性.10年前に大動脈弁閉鎖不全症合併大動脈弁輪拡張症・上行弓部大動脈瘤に対して,機械弁を用いた基部置換術および上行弓部大動脈置換術を受けた.また5年前に胸部下行大動脈瘤に対して,胸部大動脈ステントグラフト内挿術を受けた.その後の経過は順調であったが,突然の胸背部痛と両下肢麻痺を認め,救急搬送された.造影CT検査では,胸部大動脈ステントグラフト遠位端から始まり両側大腿動脈まで連続する造影剤欠損を認め,胸部大動脈ステントグラフトから両側大腿動脈に至る大量血栓症と診断した.血栓の周囲が全周性に造影されていて,動脈壁とは全周にわたって接していないと考えられた.機械弁置換後でワーファリンを内服していたが,ヘパリンによる抗凝固療法を追加するも,急速に全身状態が悪化し,発症から6時間後に死亡した.胸部大動脈ステントグラフト内挿術後のステントグラフトから末梢に連続する血栓症はきわめて稀と考えられる.

  • 池松 真人, 南 智行, 藪 直人, 立石 綾, 山崎 一也, 齋藤 綾
    2024 年 53 巻 5 号 p. 274-277
    発行日: 2024/09/15
    公開日: 2024/10/01
    ジャーナル フリー

    症例は71歳女性.自宅で倒れているところを発見され当院に救急搬送された.救急隊接触時に意識障害,右半身麻痺,右共同偏視を認め,病院到着後の造影CTで急性大動脈解離Stanford A型および解離に伴う左総頸動脈完全閉塞を認めた.末梢の左内外頸動脈に造影効果を認め,来院後に意識障害および右麻痺は改善したため,緊急で上行弓部大動脈置換術を施行した.大動脈切開時に左総頸動脈からの逆血を確認できたが順行性脳灌流を試みると送血圧の上昇を認め,左側の脳内酸素飽和度(regional Saturation of Oxygen: rSO2)は改善せず左側の脳血流障害が残存した.冷却中に左頸部を切開,左内頸動脈を露出し人工血管を縫着した.人工心肺から左内頸動脈灌流を行うと左rSO2は著明に改善した.最終的に4分枝付き人工血管と吻合し左内頸動脈を血行再建した.術後は粗大な脳梗塞は認めず後遺症も認めなかった.急性大動脈解離Stanford A型では脳虚血解除目的の頸動脈血行再建を含めた外科治療が重要と思われた.

  • 畑山 礼, 齋藤 綾, 内田 敬二, 安田 章沢, 長 知樹, 出淵 亮, 金子 翔太郎, 松本 淳, 池松 真人, 角田 翔
    2024 年 53 巻 5 号 p. 278-282
    発行日: 2024/09/15
    公開日: 2024/10/01
    ジャーナル フリー

    61歳男性.突然の胸背部痛で前医受診.CTで偽腔開存型のA型急性大動脈解離の診断となった.上行径45 mm,右総頸動脈閉塞,神経学的異常なし.心嚢水なし,AR軽度であった.発症8時間後,当院へ転院搬送された.フィブリノゲン50 mg/dl未満の高度DICにより出血リスクが高かったことに加え,右総頸動脈閉塞は無症候性であったため,内科的DIC治療を先行させた.凝固能は改善傾向となり発症22時間後に手術開始.右総頸動脈は,閉塞部位末梢側の血栓飛散を危惧し結紮.そのうえで上行弓部置換とした.術後止血は良好で,新規神経学的異常は認めなかった.通常,A型急性大動脈解離は緊急手術の適応であるが,今回はDIC治療を先行させた.検索するかぎりこのような症例報告はなく,稀な経験をしたのでここに報告する.

  • 森 久弥, 髙木 寿人, 波里 陽介, 内藤 敬嗣
    2024 年 53 巻 5 号 p. 283-289
    発行日: 2024/09/15
    公開日: 2024/10/01
    ジャーナル フリー

    弓部大動脈置換術(total arch replacement; TAR)後の感染性と考えられる末梢側吻合部(distal anastomosis; DA)仮性瘤に対する準緊急大動脈ステントグラフト内挿術(thoracic endovascular aortic repair; TEVAR)後に,感染ステントグラフト(endograft; EG)を摘出した症例を経験したので報告する.症例は70歳男性で,10年前に遠位弓部大動脈嚢状瘤に対してTARを,5年前に腹部大動脈瘤に対して開腹Y字型人工血管置換術をそれぞれ受けた.3年前に繰り返す40℃の発熱で入院し,造影CT検査でTARのDAに疣贅と考えられる腫瘤と感染性と考えられるDA仮性瘤を認め,入院翌日に準緊急TEVARを行った.血液培養でStaphylococcus capitisが検出され抗菌薬治療を行い,血液培養が陰性となって退院した.今回は顔面・下腿浮腫と呼吸苦で入院となった.血液培養でStaphylococcus capitisが検出されメチシリン耐性となっていて,抗菌薬治療で十分な感染制御が得られないことから,左第4肋間後側方開胸・逆行性脳還流併用中等度低体温循環停止下に,感染EGおよびTAR人工血管末梢端の一部の摘出とリファンピシン浸漬人工血管による下行大動脈置換術を行った.術後6週間の抗菌薬治療を行い,血液培養が陰性となって経過良好のため,第46病日に退院した.

  • 郡司 裕介, 濱 大介, 長塚 大毅, 野口 権一郎, 浅井 徹
    2024 年 53 巻 5 号 p. 290-293
    発行日: 2024/09/15
    公開日: 2024/10/01
    ジャーナル フリー

    症例は49歳男性.他院で急性大動脈解離Stanford Aに対し上行弓部置換術+Elephant trunkを施行された方.術後8カ月後から血尿と黄疸を認め,溶血性貧血の診断となった.人工血管等による機械的な溶血等が考慮され,当院へ紹介となった.経食道エコーにて中枢側吻合部内のフェルトストリップが翻転し同部位で血液の乱流を認めたため,中枢側吻合部内フェルトストリップによる機械的溶血と診断した.再上行置換術を施行し良好な結果が得られた.急性大動脈解離に対する人工血管置換において,吻合部補強のための内外フェルトストリップの使用は吻合部からの出血の減少・仮性瘤形成を予防するため,一般的な術式となっている.今回,吻合部内のフェルトストリップによる稀な合併症を経験したため報告する.

  • 森 久弥, 髙木 寿人
    2024 年 53 巻 5 号 p. 294-298
    発行日: 2024/09/15
    公開日: 2024/10/01
    ジャーナル フリー
    電子付録

    症例は77歳男性.17年前に詳細不明の心臓弁膜症に対して,大動脈弁機械弁置換術を受けた.自動車を運転中に突然の胸部圧迫感を来たした.搬送時には胸部症状は改善していて,血行動態も安定していた.造影CT検査では,大動脈基部の著明な洋梨型拡張(最大径76 mm),上行大動脈の解離・後壁(背側)からの造影剤血管外漏出,左房を圧排する縦隔内血腫を認め,基部拡張を合併したA型急性大動脈解離破裂と診断した.移植機械弁温存緊急基部上行大動脈置換術を行った.当初は低体温循環停止とせず常温大動脈遮断下の手術を目指し,遮断予定部(腕頭動脈分岐部のすぐ中枢側)の上行大動脈を剥離していたところ,背側の破裂部から突然大量出血したが,手指で出血を制御しつつ,手術を継続できた.出血による再開胸を要したが,術後30日現在,退院に向けてリハビリテーション中である.A型急性大動脈解離破裂の致死率はきわめて高く,手術救命例の本邦報告はなかった.

症例報告[末梢血管]
  • 伊藤 大地, 岡留 淳, 伊東 啓行
    2024 年 53 巻 5 号 p. 299-303
    発行日: 2024/09/15
    公開日: 2024/10/01
    ジャーナル フリー

    症例は27歳女性.在胎40週,家族歴に特記事項なく精神発達遅滞なし.出生4日目に循環不全をきたし,出生10日後に腹部大動脈狭窄症(mid-aortic syndrome: MAS)の診断となった.以降,頻回にわたり狭窄部に対し血管内治療を試行されるも再狭窄を繰り返し,6歳時に下行大動脈-腹部大動脈バイパス術を施行された.14歳時より両側外腸骨動脈の閉塞を認めていたが,下肢に虚血症状は認めず経過観察とされていた.26歳頃より両下肢に有意な跛行症状の出現を認め,血行再建が必要な状態であると判断し,全身麻酔下に開腹・鼠径部の展開を行い両側総腸骨動脈-総大腿動脈バイパス術を施行した.バイパス術は,両側総腸骨動脈を中枢吻合部,両側浅大腿動脈・大腿深動脈の分岐直上の総大腿動脈を末梢吻合部とし,人工血管を用いて吻合を行った.術後は経時的にABIの改善を認め,現在術後約2年が経過したが,下肢に虚血症状の再燃は認めていない.

各分野の進捗状況(2023年)
U-40企画コラム
  • 日髙 秀昭, 岩橋 啓介, 新崎 翔吾, 早麻 政斗, 岸上 赳大, 寺園 和哉, 森 晃佑, 田口 駿介, 阿部 貴文, 古賀 佑一
    2024 年 53 巻 5 号 p. 5-U1-5-U6
    発行日: 2024/09/15
    公開日: 2024/10/01
    ジャーナル フリー

    2024年4月より実施されている医師の働き方改革では,医師の労働時間に対する制限が盛り込まれている.5年の猶予期間があったものの,開始時点で心臓外科医の労働環境が国の求める水準を達成するのは困難と思われる.今回U40九州沖縄支部では,全国の若手心臓血管外科医を対象に働き方改革開始直後の労働状況や改革に対する意識をアンケート調査した.医師業務の効率化やタスクシフトなどの取り組みを行っている施設もある一方で,以前からの業務内容に変化がなく書類上の操作で急場をしのいでいると思われる回答も見られた.心臓外科医の働き方改革は個々人の業務改善だけでなく,診療科長,施設長を含めた外科医全体,施設全体での取り組みが必要であり,長期的には学会や行政の参画も必要と考えられる.

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