抄録
術後吻合部動脈瘤は破裂や分枝および末梢動脈の閉塞などの重篤な経過をたどるため,適切な治療が必要である.今回われわれは胸腹部大動脈瘤術後,18年の経過を経て発生した吻合部動脈瘤の手術症例を経験した.再手術症例であり動脈瘤へのアプローチをはじめ脊髄保護など手術戦略に工夫を要した.症例は66歳の男性で18年前に胸腹部置換を施行したが,外来経過中に吻合部末梢側近傍に最大径110 mmにおよぶ動脈瘤を発症した.本症例では切開方法や中枢血流のコントロール,脊髄や腹腔内臓器の保護をいかにして行うかが課題であった.腹部正中切開,遮断鉗子による中枢側遮断,ナロキソン持続投与および分節遮断による脊髄保護,選択的分枝灌流による臓器保護により,左腎動脈再建+下腸間膜動脈温存+腰動脈温存の腹部大動脈人工血管置換術を施行し,術後良好な経過をえたので文献的考察を加えて報告する.