抄録
冠動脈バイパス術後遠隔期に発症した虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対し,右開胸アプローチ,中等度低体温心室細動下での僧帽弁置換術を施行した症例を経験したため報告する.症例は81歳女性.他院で53歳,68歳の時点で冠動脈バイパス術を施行された.以後,当院循環器内科にて経過観察されていたが,呼吸困難感を伴う心不全増悪による入院加療を繰り返すようになった.心エコーでは弁尖のテザリングを伴う重症僧帽弁閉鎖不全症と後下壁の壁運動異常を認め,虚血性僧帽弁閉鎖不全症による心不全と考えられた.手術目的に当科紹介となった.再度の胸骨正中切開のリスクを考慮し,右肋間開胸アプローチ,中等度低体温心室細動下での僧帽弁置換術(Mosaic弁27 mm)を施行した.術後経過は良好で,心不全症状もNYHA1度まで改善し,術後19日目に退院となった.右開胸アプローチは十分な僧帽弁位の視野を確保できるとともに,再度の正中切開に伴うリスクを回避できることから,冠動脈バイパス術後の僧帽弁再手術において有用であった.