日本心臓血管外科学会雑誌
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原著
低リスクスコアAS患者に対するTAVRの患者背景とアウトカム
重冨 杏子伊藤 丈二小谷 真介田端 実
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2022 年 51 巻 6 号 p. 334-338

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抄録

[目的]2021年8月1日に低リスク重度大動脈弁狭窄症(AS)患者に対する経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVR)が保険収載となり,今後さらに低リスクTAVR症例数は増加するものと予測される.外科手術リスクスコア4%未満のAS患者における患者背景とアウトカムについて検討した.[方法]2016年1月から2021年6月に当院で実施されたTAVR 463例のうち,低リスクスコア(STS-PROM score 4%未満かつEuro SCORE Ⅱ 4%未満)であるものの,なんらかの理由でTAVRが実施された69例を対象に後方視的調査を行った.[結果]69例の平均年齢は81±4.5歳で,女性36例であった.TAVRが選択された理由には,85歳以上の超高齢(14例,20%),Clinical Frailty Scale 4以上のFrailty(35例,51%)以外に,上行大動脈石灰化や放射線加療後,間質性肺炎や抗ミトコンドリア抗体関連筋炎による2型呼吸不全といった因子があった.他疾患術前や家族介護のため早期退院・回復を要する因子が6例,推定生命予後1年以上5年未満を2例に認めた.また本人やご家族の強い希望でTAVRが選択されたケースが3例あった.ICU滞在日数,TAVR後在院日数の中央値はそれぞれ,1日(1~11日),5日(3~40日)で,手術死亡は認めなかった.遠隔期の観察期間中央値は893日(36~1,834日)で,Kaplan-Meier法で1年生存率は99%,2年および3年生存率は97%であった.遠隔死亡3例の死亡原因は,敗血症性ショック1例,死因不明1例,人工弁感染性心内膜炎後感染性脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血1例であった.フォローアップ期間中に大動脈弁への再介入および心不全入院はなかった.[結論]以前のTAVRの適応基準で判断されていることから,手術ハイリスク因子が含まれており患者背景は悪かったが,当院での低リスクスコアAS患者に対するTAVRの短期・中期アウトカムは良好であった.今後,TAVRの適応の一定条件が取れ低リスク患者に拡大することで,ASに対する短期・中期アウトカムは向上する可能性が示唆される.長期アウトカムについては引き続き検討を要する.

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