2024 年 53 巻 4 号 p. 193-197
症例は78歳,男性.57歳時に他院で大動脈弁置換術(AVR)を施行された.術後9カ月で人工弁感染性心内膜炎(PVE),弁輪部膿瘍を発症し,ホモグラフトを用いて大動脈基部置換術が施行された.ホモグラフト置換20年後に背部痛を主訴に来院し,化膿性脊椎炎の診断で入院した.血液培養からStreptococcus anginosusが検出されPVEの治療に準じて抗生剤治療が開始された.経過中に大動脈弁閉鎖不全症(AR)の増悪,大動脈弁右冠尖に疣贅の付着を疑う所見を認めPVEと診断された.塞栓症状,心不全がなかったため抗生剤治療を先行させ,第33病日に手術を施行した.術中所見ではホモグラフトはバルサルバ洞が高度に石灰化し,各弁尖は非常に脆弱であった.右冠尖の先端には疣贅が付着していたが,感染は限局的で弁輪部には及んでいなかった.基部置換も考慮されたが,高齢で日常生活動作も低下していたため,侵襲性を低下させることを優先しAVRを施行した.ホモグラフト大動脈弁輪の石灰化は高度であったが,縫合線の下の自己組織には石灰化はなく,同部位から針糸をかけることで弁輪の糸かけは可能であった.硬化したホモグラフトの閉鎖にはウシ心膜パッチを使用した.感染再燃なく術後37日目にリハビリ目的に転院した.ホモグラフト置換後の再手術症例ではグラフトが高度石灰化を来していることが多く,個々の症例の石灰化の程度や患者背景に応じて,最適な手術術式を検討する必要がある.