1992 年 21 巻 1 号 p. 99-103
傍大動脈リンパ嚢胞, ならびに乳糜腹水は, 比較的稀な術後合併症である. 最近, われわれは腹部大動脈手術後の2例を経験した. 1例目は53歳, 男性, 上腸間膜動脈解離で, 大動脈-上腸間膜動脈バイパス術を施行後, 傍大動脈リンパ嚢胞を発症した. 腹痛, 嘔吐等の症状があり, 約1か月間の保存的治療によっても症状は緩解せず, 外科的ドレナージを施行した. 2例目は, 48歳, 男性, IIIb型解離性大動脈瘤で, 左腎動脈血行再建術と腹部大動脈人工血管置換を施行し, 3週後に乳糜腹水をみた. 2回の腹腔穿刺と1か月間の絶食, 高カロリー輸液で保存的に治癒せしめた. 腹部大動脈の剥離操作が必要な手術では, リンパ系合併症があることを認識し, 術中は, 適切なリンパ管の結紮を行い, またリンパの漏出に注意し, 発見した場合は, 確実な結紮が必要である. また術後は早期診断に心がけ, 速やかに保存的治療を行うべきである.