1998 年 27 巻 5 号 p. 314-317
症例は70歳男性. 大動脈弁閉鎖不全症に対し大動脈弁置換術を行った. 体外循環終了約10分後に突然徐脈, 血圧低下から心停止をきたしたため体外循環を再開した. 経食道超音波心エコー図法にて急性冠状動脈閉塞を伴う Stanford A型大動脈解離と診断し, 低体温脳分離体外循環下に上行大動脈置換を施行した. しかし, 冠状動脈閉塞の解除ができず体外循環からの離脱が困難であったため, 大伏在静脈によるバイパス術を左冠状動脈前下行枝と右冠状動脈に追加し救命し得た. このように冠状動脈周囲に及ぶ血腫を伴う場合, 急性期に一過性の冠状動脈閉塞をきたすことがあり, 冠状動脈バイパス術の追加を常に念頭におき手術を進めるべきである.