抄録
症例は67歳男性.1991年に右内頸動脈領域脳梗塞,左半身不全麻痺を発症し右浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術を施行された.2000年3月より右手を使用したさいのめまいが出現し,脳血管造影を施行された.右鎖骨下動脈は起始部で完全閉塞しており,右鎖骨下動脈遠位側への血流は右椎骨動脈から逆行性に保たれていた.左内頸動脈にも狭窄を認め高度頭蓋内病変を有する鎖骨下動脈盗血症候群であった.2000年6月1日に冷却マットを使用し軽度低体温下に腋窩-腋窩動脈交叉バイパス術を施行した.術中,術後に合併症はなく,症状は完全に消失した.術後の血管造影ではグラフトを介して右椎骨動脈,右腋窩動脈遠位側が順行性に造影された.高度頭蓋内血管病変を有する鎖骨下動脈盗血症候群に対し,軽度低体温下に腋窩-腋窩動脈交叉バイパスを用いて合併症なく治療できた症例を経験したので報告した.