抄録
チタン鋳造体表層の多層構造組織がその変形・破壊機構に果たす役割を検討するための予備実験を行った.圧延板から切り出した試験片を空気中または真空中で加熱してから三点曲げ試験を行い, 変形過程で発生するアコースティックエミッション(AE)を解析するとともに, 試験片断面の光顕観察を行って, 変形機構とクラックの進展挙動を検討した.10-5torr中で変態点以上の温度に加熱した場合は, 弾性限と最大荷重が低下した.塑性変形の過程では大きなエネルギで高い振幅のAEがしばしば発生したが, これは規模の大きな双晶変形によることを組織観察によって確認した.弾性限低下と大規模双晶変形は加熱によって結晶粒が粗大化するためである.空気中で加熱した場合は, 表面に生成したαケースのために弾性限は上昇するが, それに到達するかなり前から小さなエネルギのAEが発生した.これは引張側αケースにおいて, 既存の一次クラックが成長し, また変形による二次クラックも新たに発生して成長するためである.1, 000℃以上に加熱して炉冷した場合, 塑性変形に移行する途中またはそれ以前に, 荷重が幾度か急降下し, それと同時に大きなエネルギで高い振幅のAEが発生した.これは主クラックが針状組織内を不連続に進展するためである.針状組織はクラック進展抵抗が大きい.