抄録
歯科用コンポジットレジンの力学的特性をさらに向上させるようなシラン処理剤を開発することを目的として, シリコン原子に結合する反応基数が処理効果および吸着状態におよぼす影響を検討した.シリコン反応基数の異なる3種のγ-methacryloxy-propyl-chlorosilane(γ-MPCS)で表面処理したシリカ面に対する水の接触角は, シリコン反応手数の相違による影響はあまり見られず, 同様な接触角を示した.しかし, そのシリカ面に対するレジンの接着強さは, シリコン反応手数が1個のγ-MPMCSではレジンが界面剥離し, 約20kg/cm2であったのに対し, 3個のγ-MPTCSではレジンが凝集破壊し, 約130kg/cm2となり, シリコン反応手数の相違が大きく影響した.そこでこの相違を調べるために, コロイダルシリカに吸着したγ-methacryloxy-propyl-ethoxysilane(γ-MPES)の吸着状態をESRのスピンラベル法で調べた.γ-MPMESの場合は, 運動の拘束された成分が大部分なのに対し, γ-MPTESの場合は, 拘束成分以外に運動性成分が観測され, フレキシビリティの高い吸着層が形成されることがわかった.これらのことから吸着状態と接着強さとの関係が明らかにされた.