抄録
本研究は遊離リン酸の象牙質透過性, 特にその経時的な透過率の変化, セメントの粉液比の違いによる影響, そして象牙質透過後の経時的なpHの変化を主体にして調べ, また同時にセメントの他の成分および歯質成分の透過性についても調べ検討を加えた.
1)遊離リン酸はセメントの初期硬化が終了しても, 象牙細管を透過し続け, 約9時間後にピークに達する.
2)標準粉液比(P/L:1.45 g/0.5 ml)より粉末量を±0.20 g増減させて一定の液量(0.5 ml)でセメントを練和しても, 遊離リン酸の経時的象牙質透過率は変化しない.
3)歯質試料の場合, セメント充填を行うことによりリンが平均4.61 ppm検出されたが, 同時にカルシウム, マグネシウムおよび亜鉛も遊離リン酸のエッチング効果により平均でそれぞれ3.41, 1.44そして0.08 ppm検出された.すなわち, 遊離リン酸のエッチング効果により歯質は脱灰されるが, 同時に遊離リン酸自体も脱灰反応によりその酸性度が減弱される.
4)遊離リン酸の影響を受けない歯質試料のコントロールの場合でも, リンは平均で2.26 ppmそしてカルシウムは平均で2.39 ppm検出されたが, マグネシウム(0.77 ppm)および亜鉛(0.15 ppm)は低濃度しか検出されなかった.
5)セメント充塡ガラス繊維試料の場合, 遊離リン酸を含めたセメント成分はガラス繊維試料により干渉されないため, リンが平均20.48 ppm, 亜鉛が平均10.04 ppmそしてマグネシウムが平均3.42 ppm検出されたが, カルシウムは平均0.40 ppmと, 低濃度しか検出されなかった.
6)ガラス繊維試料のコントロールの場合, 各元素は基本的にガラス繊維試料および蒸留水にほとんど含まれないためリンは平均で0.16 ppm, カルシウムは0.037 ppm, マグネシウムは0.098 ppmそして亜鉛は0.12 ppmとほとんど検出されなかった.