歯科材料・器械
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原著
ニッケルの各種溶液内での溶出挙動について
五老海 輝一
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1988 年 7 巻 4 号 p. 513-524

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抄録

生体内における金属の腐食機構を解明するために, 生体組織液類似の各種溶液中における純ニッケルの溶出挙動についてしらべた. また, タンパク質添加の影響を見るために血清添加MEMとアルブミンおよびムチン添加人工唾液についても実験を行った. 浸漬は旋回条件下で1週間行い, 10回(10週間)繰り返した.
1. リンゲル液およびハンクス液中でのニッケルの溶出量は1ppm以下であった.
2. 血清無添加MEM中でのニッケル溶出量は, 第1回浸漬液では塩類溶液と同程度であった. しかし, 浸漬を繰り返すにつれて増加した.一方, 血清添加MEM群の場合, 第1回浸漬液のニッケル溶出量は血清無添加MEM中より大きな値を示した. しかし, 第2回浸漬以降ではほとんど差は認められなかった.
3. 人工唾液中でのニッケル溶出量は第1回浸漬液から第4回浸漬液までは浸漬を繰り返すとともに増加した. そしてその後は減少傾向を示した. アルブミンおよびムチン添加人工唾液でのニッケル溶出量の経時的変化は無添加人工唾液のものと大きく異なっていた.
4. 保持分子量30, 000の限外濾過による影響はアルブミン添加人工唾液群にのみ認められ, 限外濾過後の濾液中のニッケル量は濾過前より明らかに減少していた.
以上の実験結果から, 塩類溶液中ではあまり溶出しなかった純ニッケルが, アミノ酸やタンパク質の存在下で多量に溶出することがわかった. さらに, アルブミンとの間で結合の存在が示唆された.

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© 1988 一般社団法人 日本歯科理工学会
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